住まい手さんが見学会場として協力されましたイベントに伺いました。

芦田成人建築設計事務所壱の家01

リノベーション完成半年後の点検の日にもお伺いした「壱の家」。 この日は、この高倉台と鶴甲(つるかぶと)の両団地にて、「リノベーション住み開きオープンハウス」が開かれ、住まい手さんが見学会場としてご協力なさるとのこと。
芦田さんは、住まい手さんのサポート役として、会場となった「壱の家」に待機されることに。たくさんの方がご来場され、関心の高さがうかがわれました。

今回は、当日来場者様より複数回ご質問いただいたことを中心にQ&A式でご紹介いたします。

外は5月中旬ながら季節外れの肌寒い日でした。「壱の家」に入って来られると、室内の暖かさに驚かれることがしばしば。まずは、多くの方が目を留められたのは、壁板を照らした間接照明でした。

 

Q1. 壁板を照らした間接照明が印象的です。どのような仕掛けになっているのですか?

A1
はい、天井はダウンライトを仕込むため、そして壁際の天井に断熱材を入れるためにコンクリートの躯体よりも10cm程、下がっています。
天井下地を木で組んでいますので形状を自由に作れる訳ですが、図のように死角を利用した位置に照明器具を埋め込んで、そこから光を照らすように考えました。
光源が直接見える照明と違って間接照明は、対象をぼんやり照らす効果があるために、より幻想的に、やわらかな雰囲気を演出できます。
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間接照明部断

 

Q2. 天井は高いほうが良いという話をよく耳にします。その点についてどうお考えですか?

A2.
いろんな考え方があると思いますが、高ければ高いほうが良いわけではないですね。
エネルギーについて考えた場合、天井が高い家では容積が大きくなり、エアコンを効かせるにしても大きなエネルギーを必要とします。省エネが求められる現代においてエネルギー消費はできるだけ抑えたいものですね。
日本の住宅では、天井高2.40m位が平均とされています。建物の用途や部屋の面積にも関係するとは思いますが、天井は高くし過ぎない方が空間が落ち着きます。私の経験では住宅の場合、2.2m~2.3m位が心地いいですね。私は身長が1.76mと低くはない方ですが、1.80m以上ある住まい手さんも同じように感じた方がいらっしゃったことからも私の独断ではないと思います。
全ての部屋が天井が高い必要はなく、天井の高さには高低差があるほうが空間にメリハリがつきます。設計する際には、生活シーンによって天井の高さに変化を付けることを意識しています。

 

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2重窓

 

 

Q3. 2重窓を内側につけると室内が狭くなるように思いますが、反対に2重窓にすることで良くなる点を教えてください。

A3.
既存の窓をペアガラスの窓に取り換え可能なら、それが一番良い方法です。
しかし、コンクリート造のマンションの場合、窓の取付が複雑なので外すことは容易ではありません。ベランダの防水の立ち上りが関係していたり、専用部分と共用部分の境目でマンション規約に触れるため自由に触れなかったりと、既存の窓を触ること自体が簡単ではないんですね。
ですので、内側に窓を足す方が簡単ですし、余計な工事が必要ない分、コスト面でも安くなります。壁に断熱を施すために壁の厚みも部屋の内側に膨らんできます。その厚みを生かして窓を足しますので部屋が極端に狭くなることはありません。
むしろ、一枚窓を足すだけで、結露を抑えることができたり、冬は寒さをダイレクトに感じ難くなります。寒いのが苦手と言う方にはまず、窓だけでも1枚内側に足してみると良いのではないでしょうか。

 

Q4. 団地のような建物でも断熱は大切ですか?

A4.
はい。今日は5月中旬にしては少し寒かったですよね。先ほど上着を着ずに外に出たのですが、肌寒く感じました。この家に戻ってくると、その暖かさがよくわかりました。
インコ(インコは南国原産です)を飼っておられるので、もしかしたらと思って「暖房つけてますか?」と住まい手さんに確認しましたが、「何もつけてませんよ」とのお返事でした。来場者の方々も羽織っておられる上着を自然と脱がれてますね。汗をかいておられる方もおられたので、住まい手さんに「窓を開けましょうか」と提案したくらいです。
 
この住まいのリノベーションでは、外気に触れる面の壁全面とその折り返し50㎝ほど内側に入った所までの壁面、天井面に断熱を施しました。
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断熱施工した箇所壁面
 

また、マンションやビルの場合、最下階の床下と最上階の天井面にはしっかりと断熱対策が必要です。この住まいは1階ですので、床の全面に断熱を施しています。
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最上階・最下階の断熱施工すべき箇所
 
見学会の会場となっている今の熱源は照明器具と人体からの発熱のみです。見学に来られる人が家の中に増えれば増えるだけ熱源が増えることになり、室温も上がります。断熱を施すことで熱を逃さずにキープできるようになるということです。
冬の寒い時にどれだけ快適に過ごせるかを想像していただけると思います。先ほど住まい手さんから伺ったのですが、この冬、外がマイナス気温の時に部屋の中では20℃近くもあったそうです。
 
夏の場合を考えてみましょう。夏は、コンクリートの蓄熱性の高さが仇になります。昼間に受けた熱を時間を掛けて蓄積し、陽が沈んだ夜にその熱が室内に発散されるため、熱く不快な夜を過ごすことになるのです。
そのため、夏は窓からの陽射しが室内に直接入らないようにバルコニーにスダレを立てたり外付けのブラインドを付けるなど窓の外側で陽射しを除ける対策が有効になります。窓が無い個所では断熱材が暑さ対策に効果を発揮します。
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コンクリートの蓄熱性の概念図
 
この建物の場合、壁の断熱施工をした場合と、しない場合とのコストの差はおよそ十数万円です。先述のような状況から察しても光熱費は抑えらていますので、この差は数年で元が取れます。
このため夏でも冬でも断熱を施すことの意味は大きいと言えます。
下の写真は冬場の陽射しです。太陽が低くなる冬は、この陽射しが有難いですね。

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Q5. 吊戸(つりど)はかっこいいですね。視覚的な格好良さの他にどういう意図があって採用されたのですか?

A5.
ありがとうございます。はい、非常に軽いので、操作性が良く取り扱いが楽になります。本来ガラスが入る部分に使っている素材は、ツインカーボと呼ぶポリカーボネートの複層板です。ガラスと違って非常に軽量です。複層になっているため単板ガラスを使うよりも断熱性が少し高まります。
また、マンションでは、とかく上下階の振動音が問題になることがあります。吊戸でない建具の場合、戸車がレールの上を転がって戸を開閉しますので、戸車が転がる度に音がします。その音は、振動音となって上下階の部屋に伝わることがあり、人によっては騒音と感じる方がいらっしゃいますので、その対策としては吊戸(つりど)は効果的です。
ただし、戸を上から吊っているため床との間に少し隙間ができ、そこからの冷気を不快に感じる方もいらっしゃいます。断熱対策と同時に考えることで、それらは解消できると思います。

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吊り戸

 

Q6. 壁を取り払ってあって柱や梁型がなくて広々感じますが大丈夫なんですか?ハリはどうなってるんですか?

A6.
はい、この建物は壁式構造と呼ぶ構造で、元々柱型や梁型は全て壁の厚みの中に集約されている構造です。空間は非常に凹凸がなくシンプルですね。梁(ハリ)がないというより、コンクリート躯体の開口の垂れ壁の部分が梁なんですよ。(写真の緑の位置)
ですので解体時や工事ではその部分を傷めないように気を付けました。またリビングが広く感じるのは間にあった壁を取り払ったからなんですが、この壁は木で造作した壁でしたので、構造上解体しても問題ありませんでした。
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梁となるコンクリート躯体の開口の垂れ壁

 

かっこいいマンション・リフォームは、コンクリート剥き出し?

芦田さん、今日はお疲れさまでした。
芦田成人(以下A):
お疲れさまでした。
間接照明で照らし出された壁板が印象的だったせいか、天井の高さや断熱について話されることが多かったですね。確かに、かっこいいマンション・リフォームは、コンクリート剥き出しの部屋、というイメージがあります。
A:
マンションリフォームではコンクリートの壁を剥き出しにしたラフな仕上げも人気がありますね。
お話の中で述べたように、蓄熱性の高い(温まり難く冷めにくい)コンクリートの性質を知ると、やはり必要なところには、しかるべき断熱処理をしておく方が、無垢材の恩恵を生かした快適な住まいになります。優先事項を整理して、何を実現させるか、じっくりとお考えになると良いと思います。 芦田成人建築設計事務所壱の家07
リノベーション中の「壱の家」

 

マンションだからこそ動線を細やかに工夫

一概には言えませんが、マンション・リフォームでは、間取りを変えられることがあるのも魅力のようです。
今日も、リビングからキッチン、廊下を回り歩いて、「なるほど」と言っておられる来場者の方がおられました。「壱の家」の場合はいかがでしたか?
A:
「壱の家」のリノベーションでは水回りも全て触りました。排水管との兼ね合いで部屋の真ん中に集中した以前の配置と大きく変更できませんでしたが、仕様はガラッと変えています。 芦田成人建築設計事務所壱の家03
リノベーション前の間取り
 
当初、ダイニングとの対面型キッチンを希望されたのですが、対面型にしてしまうと触れないコンクリートの耐力壁との関係で、キッチンからダイニングまでの動線が大きく、ぐるっと回り込まざるを得なくなるため(当初希望された対面型キッチン/緑色矢印)、対面型を止め、独立型のキッチンとしました。 芦田成人建築設計事務所壱の家03
当初希望された対面型キッチン
 
流し台の背後に置いた家電棚と冷蔵庫置き場の周囲をぐるっと回れるような回遊動線(リノベーション後/緑色矢印)をつくりました。キッチン、廊下、ダイニングをもぐるっと回れる行き止まりのない楽しい空間となっています。
洗面所は、奥に細長いスペースとなりましたが、その形を生かし収納、室内干し、洗面台を効率よく配置しています。その奥にある浴室はパイプスペースとの兼ね合いで中途半端な大きさが残りました。デッドスペース(使えない空間)を減らすために、細かな単位でサイズオーダーが出来るメーカー既製品のシステムバスを採用しています。
唯一、解体前の推測に反して予定変更せざるをえなかったのがトイレです。排水管へのつなぎ込みが予定通りにできなったのが理由ですが、予定を変更したことがかえって、ゆとりのあるスペースを生みました。 芦田成人建築設計事務所壱の家03
リノベーション後

 

 
芦田成人建築設計事務所壱の家03

 

マンションだから無垢の木を利用しやすい。

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イベントで配布されていた大学生による団地リノベーション研究をまとめた冊子。表紙は、「壱の家」自慢の本棚が採用されていました。




今回のイベントでは、暮らしているマンションをもっと快適にしたい、とお考えの方がお見えになりました。
一方で、コンクリートのマンションだからできることは限られている、と諦めておられる方も多いように思います。
A:
実は、私も中学までを大阪の団地で過ごしました。いわゆるコンクリートの箱の中で育ちました。高度経済成長期に建てられた公団で、みなが一様の間取りの中で一つずつ違う暮らしを送っていたわけです。一戸建てなら、暮らしに合わせた違う間取りが可能ですが、マンションの場合は、そうもいきませんね。 であるならリフォームの際には、せめて使う素材だけでもこだわってみる方法もありますよ。私自身の事務所も鉄骨の骨組みの中に無垢材である木をふんだんに採用しています。
必ずしも木の暮らしを諦める必要はない、ということですね。
A:
ええ、ありません。コンクリートのマンションの中にも木を取り入れることができます。
骨組みは出来上がっていますから、戸建て住宅よりも手軽に自然素材を採用しやすい環境にあるといえます。木の価格は「円/㎥」であらわされるように、ほぼボリューム(体積)で決まります。 戸建て住宅の場合、骨組みに用いる柱やハリは、それなりのボリュームになり金額の負担も大きくなります。
それに比べるとマンションで木を使用する場合、床や壁、天井、窓枠などに使用するだけですので、ボリュームも大きくなりません。すなわち、ボリュームの大きくならないマンションこそ金額的にも無垢の木を利用しやすいともいえます。
無垢の木は高いと思われ勝ちで敷居が高そうに見えますが、そうでもありませんよ。せめて床だけでも採用するなどご検討されると良いと思います。

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鉄やコンクリートなどの人工物の中でだけで暮らすよりも、生活の中に木を取り入れて香りや肌触りなど、五感に訴えかける方が感性も鍛えられます。
夏は素足で過ごす方が多いのも木の家の特徴です。夏はスリッパや靴下を履いたままよりも素足の方が圧倒的に気持ちが良いことは、みなさん経験されていると思います。無垢の木の床の住まいなら、そのような生活がかなうのです。
足触りのやわらかな杉ならば、長時間触れていても疲れ難いので人気もあります。常に冷たい感触しかない、新建材よりも無垢材の方が、圧倒的に耐久性もあり、長持ちします。1.5cm程度の厚さの物から3~4cmもある厚板を選べるのも魅力ですね。
唯一の欠点と言えば、傷がつきやすいことでしょうか。しかしそれとて、みなさんが「味」として受け止めておられるようです。新建材でも傷はつきます。そして傷を補修しやすいのは無垢材です。
今日はありがとうございました。
A:
ありがとうございました。

 

聞き手・構成: 芦田成人建築設計事務所ウェブサイト制作チーム(担当: 植村)

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