キッチンがお出迎え

家づくりと設計の役目

どうやって家を建てたか、と人に訊ねられた際に、建築家と建てました、と答えるとポカンとした顔をされることがよくあります。建築家との家づくりというのは、認知度は低いようです。

私たちの場合はというと、妻の実家が建築家さんにお願いしてリフォームをした経験があって、そういう家づくりの形も私たちの頭の片隅にはありました。しかし、やはり私たちも、まずはハウスメーカーや工務店の家を見てみることから家づくりを始めました。

いろんな家を見てまわるうちに、木造の家の方が二人の好みだと思うようになりました。木の家であることのほかに、私たちの主な要望は、リビングを広く取ること、おばあちゃんのための和室があること、周辺地域に馴染むような和のテイストの外観である、といったところでしょうか。

いくつか見たなかの良さそうな工務店さんにお願いして話を進めてみようということになりました。しかし、その工務店の設計士さんが、施主さんが考える間取りが一番なので施主さんが考えてください、とおっしゃって提案をして頂けませんでした。受け入れ型というと聞こえはいいのですが、大小さまざまな要望を上手にまとめることは、専門家である設計者の役割ではないか、というのが私たちの考えでした。

もちろん私たちでも考えてはみましたが、素人には明らかに限界があるように思えました。プランも模型も出来上がってこないまま、木材に対するこだわりなどを話すことには、何の意味を見出せませんでした。それでいて、お仕事なので仕方がないのですが、契約を急かされているようにも感じたので、この方法では、私たちの望む家づくりは難しいという判断を下すに至りました。

プランと情熱、そしてお人柄

その後、コーディネート会社に行って、建築家さんたちの設計された事例を見せてもらうことにしました。そこで、芦田さんのポートフォリオを拝見し、特に「楽しい家」(旧綾部の家)がとても気に入りました。芦田さんのウェブサイトで手がけられた他の住宅もじっくり見て、芦田さんに私たちの家のコンペに参加して貰うことを決めました。

我が家の敷地はL字型の変形敷地です。変形部分の一番奥は北側となり、光りが行き届きにくい場所になります。そこで、北側の一番奥の部屋の手前に小さな坪庭を設け、その南側に平屋のリビング、というのが芦田さんの提案でした。私たちは、さすがだな、と、うなりました。

そうすることで、薄暗く陰気になりがちな一階の一番北側のおばあちゃんの部屋は、この住まいで一番静かで、風通しのよい明るい部屋になりました。そして、家全体に明るい光と風が行き渡ります。平屋のリビングは屋根の勾配に沿った高い天井で、とても開放感のある空間となっています。敷地の特徴と私たちの望みをバランスよくまとめたアイデアは、私たちが最良の間取りを考えて出てくるものではありません。

プレゼンでは、他の建築家さんたちはみなさん、間取りの話に終始されたのですが、芦田さんは木材を持参されて、まず木の話をなさったことに驚きました。提案頂いたプランが良かったのと同時に、木への情熱と知識に圧倒されました。

また、芦田さんはお話ししてみて、気さくで、何より信頼出来そうなお人柄だという印象を持ちました。魅力的なプランと、こちらの要望を汲み取る能力をお持ちの芦田さんなら、私たちの求める家づくりが出来る、そう確信しました。私たちと年齢が近かったことも幸いでした。ご年配の偉い建築家の方だと、こちらが気後れしてしまいそうでしたので。

家づくりをしていた1年間は本当に楽しくてしょうがなかったです。芦田さんには、毎週打ち合わせでお会いしましたし、しょっちゅう現場を見回って、わからないところを見つけては芦田さんに電話しました。

家族が集まる家の中心、床座のリビング

妻が母から受け継いだ年代物のピアノをリビングに置きたいというのも当初の希望の一つでした。吹き抜けの下に位置するように設計していただいたので、音の響きが素晴らしく、弾いていて最高に気持ちいいです。子どもたちの誕生日でも大活躍でした。リビングから繋がる廊下では、子どもがスキップの練習して、発表会で披露出来るまでになりました。丸柱では登り棒の練習です。リビングには2階の廊下の窓からの光が差し込み、空気が流れます。そこにいれば、家族がいる気配も感じ取れます。

子どもが遊ぶ、食事をする、くつろぐ、テレビを観る、本を読む、寝転がる、そういうことが全部出来るリビング、家族の集まる家の中心にしたいという思いがありました。私たちは、いわゆる床座の生活をしたかったのですが、そのためには、掘り座卓に足を降ろして床に座っている人、椅子に座っている人、立っている人、それぞれの目線が自然に行き交うことがとても重要です。テーブル、カウンター、キッチン、それぞれの距離を的確に取ることで、その高低の差を和らげ、居心地の良い空間をつくり上げてもらいました。

同じ敷地に建っていた以前の家は、1階の床の高さが低かったので、床に座った際、窓から家の周りがまったく見えませんでした。新しい家は、床面を高く設計してもらったので、一階の床に座っていても外の様子や景色ががよく見えます。鳥が飛んでいくのもよく見えます。蜘蛛が巣を張るのまで見えてしまって、掃除をせざるを得なくなるのは、良し悪しというところでしょうか。月を見ながらごはんを食べるのは美味しいね、と子どもが気の利いたことを言ってくれるのが、うれしいですね。

リビングに繋がるキッチンは、一階部分がほぼ見渡せます。明るくて料理するのもとても気持ち良いです。当初既製品にする予定でしたが、せっかく一生に一度のことなので、オリジナルをオーダーすることにしました。特に折りたたみ式の配膳・下膳台がとっても助かって気に入っています。

嬉しい誤算

夫が本や漫画をゆっくり読んだりする場所、趣味の集大成、と称してロフトスペースを利用した書斎を欲しがりました。それに対して、妻はどちらかというと反対で、しぶしぶ了承した、という形でした。構想段階では確かにそうでした。

しかし、蓋を開けてみると、むしろ妻のほうが仕事の勉強やレポート書きに活用しています。独りになって集中出来る、と大いに気に入っています。今では、夫が足を踏み入れるのは、妻のためにラップトップパソコンを運んであげるときくらいでしょうか。嬉しい誤算で、私たちのこの家のもっともお気に入りのスペースの1つとなっています。

木の、冷静と情熱のあいだ

お気に入りの椅子がぴったり収まったカウンターは、耳付きの木を使いたくて、芦田さんに木を見立ててもらったものです。目が利くというのは、大切なことです。

今では笑い話ですが、あるところに、私たちだけで木材を買いに出掛けたことがありました。たまたま、その時は売り場に専門の方がおられませんでした。素人だけで選ぶことに一抹の不安を感じながらも、思い切って購入しました。

しかし、それを建築現場に持ち込むと、予感は的中。大工さんは、ひと目見てこうおっしゃいました。この木は腐ってる、と。何とか使い道を考えてくださったので、無駄にならずに済んでよかったのですが、本当は、玄関に使うつもりで買った木材が、トイレの棚にまで、格下げになってしまいました。

すっかり木が好きになって、特に夫が、ですが、建築前はいろんな種類の木を使おうと意気込んでいました。しかし、さすがに芦田さんはプロの冷静さで、基調となる木を選び、あとはアクセントに使う程度が良い、と勇めてくださいました。今ではそれが正しかったと思います。木を数種類に絞ることで、見た目の統一感が綺麗に見えるというのはもちろんですが、加えて匂いも引き立つそうです。木の匂いは、家の中に居ると慣れてしまってるのですが、外出先から戻ってきた際などは、スギの優しい木の香りが鼻をくすぐります。

木の家で暮らすこと

木の床や柱は、暮らし始めた当初は、事前に伺っていた通り傷や汚れが気になりました。シールやマジックは子どもの手がすぐ届く場所には置かないようにしていますし、絵を描くときは専用のテーブルで描かせます。子どもたちなりにも気を配ってくれてるように感じます。ただ、物を落としてつく凹みや、食べ物こぼしで出来たシミは、どうしようもないので、風合いとして割り切っています。

スギの床板は、普段、ガーゼの袋を2重にしたものに炒ったヌカを入れて作った、ヌカ袋で床を磨いています。雑巾がけの要領で子どもたちもとても協力してくれています。

床をサンドペーパーで磨いたり、キズを補修したりするのは、夫の役目です。蜜蝋塗りもします。濃く塗るととてもキレイに見えるのですが、滑りやすくなるので注意するよう芦田さんに言われました。

木の家で暮らすということは、メンテナンスの手間と、傷も味だと受け入れる覚悟のようなものを必要とします。しかし、素足でスギの床板の上を歩く気持ち良さは、それらを補って余りあると言えます。仕事から我が家に帰って、まず最初にすることといえば、靴下を脱ぐことです。裸足になれば、くつろぎの時間のスタートです。それに、木目は見ていて飽きません。夜、灯りのもとで木を眺めていると、一日の疲れを癒してくれる気がします。

また、光を取り入れることを工夫して下さったおかげで、家中にさまざまな角度の光を落とします。光と陰が、木目や壁に描き出す模様は、朝夕はもちろんのこと、四季折々にその表情を変えていきます。慌ただしく過ぎる日々の生活の中で、ふと、その美しさに目を止めるとき、木の家にしてほんとによかった、と心から思います。

聞き手・構成: 芦田成人建築設計事務所ウェブサイト制作チーム(担当:植村)

 

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