施工図は私が描く
一般的な建築現場では
住宅建築の現場では、設計者が描いた設計図をもとに施工会社が施工図を作成することが一般的です。
設計図は建物全体の考え方や寸法を示す図面ですが、実際に職人さんが施工するためには、さらに詳細な図面が必要になります。
そこで作られるのが施工図です。
当事務所の設計監理案件では、多くの現場で私自身が施工図を作成しています。
手間も時間も掛かります。
正直に言えば、効率だけを考えれば施工会社に任せた方が楽かもしれません。
それでも続けているのには理由があります。
先ずは、手戻りを防ぐことができると言うことが理由の一つです。
現場で最も避けたいことの一つが手戻りです。
一度作ったものを壊してやり直す。
言葉にすると簡単ですが、実際には大きな損失になります。
職人さんの手間が増えるだけでなく、材料に傷が付く可能性もあります。
そして現場の雰囲気も少しずつ悪くなります。
施工図を事前に描き込み、納まりを整理しておくことで、こうした手戻りを大幅に減らすことができます。
次に、本当に納まるのかを確認できると言うことも理由になります。
設計中は美しく見えた図面でも、施工図を描き始めると様々な問題が見えてきます。
柱と建具の取り合い。
断熱材の厚み。
設備配管の通り道。
見えない部分の寸法関係。
施工図は、設計図の答え合わせのような作業でもあります。
「描いたものが本当に実現できるのか」
それを自分自身の手で確認できることは大きな価値だと思っています。
実際、この作業によって大きな変更が伴いそうになったのを事前に発見することができたこともあります。
そして、職人さんから学べると言うことも大きな理由になります。
実は私が最も大切にしているのはここかもしれません。
施工図を描いて現場へ持ち込むと、職人さんから様々な意見をいただきます。
「こうした方がきれいに納まる」
「この方法ならもっと丈夫になる」
「こちらの方が将来のメンテナンスがしやすい」
長年現場で培われた知恵は、教科書には載っていません。
その一つひとつが次の設計の財産になります。
私たちは図面を描くことは出来ても、それを形にしていただくのは現場の職人さんです。
その職人さんへのリスペクトの気持ちを込めて、施工図を描いています。
又、それは職人さんとのコミュニケーションツールの一つとしても機能します。
設計は図面を描いて終わりではない、「自分が描いた図面に責任を持つ」
多くの設計者がSNS上で現場の職人さん達から叩かれている記事を目にする度に、心が痛い思いをします。
設計というと、机に向かって図面を描く仕事と思われることがあります。
しかし実際には、図面を描いた後からが本番です。
施工図を描き、現場で確認し、職人さんと対話しながら建物を完成へ導いていく。
そうした積み重ねによって、図面の中にしか存在しなかった建物が本当の住まいになっていきます。
だから私は今も施工図を描き続けています。
それは単なる確認作業ではなく、より良い建築をつくるための大切な設計の一部なのです。