水害に遭った建物、先ず何をすべき?

2014年の豪雨災害で私が直接めくった床下の状況です。

先日、住宅医スクールのスキルアップ講習会を受講しました。

今回の講師は、信州大学の中谷岳史先生。

テーマは、

「自宅が浸水したらどうしたらいいか?」

水害発生後の応急処置から、建物の診断、そして復旧工事までを学ぶ講習でした。

先日は千葉で、そして今日は富山や石川で、水害は日本全国、どこで起こっておかしくはありません。

これまで私は、水害に遭った建物は、

「まず床板をめくって、床下を乾かすことが最優先」

だと思っていました。

そう考えていたのには理由があります。

2014年、福知山市や丹波市を中心に大きな水害が発生した際、私は水害に遭ったお客様の借家の復旧作業を手伝ったことがあります。

床上まで浸水した建物に入り、床下に入り込んだ泥水や汚泥を掻き出すため、まず床板をめくる作業を実際に行いました。

その経験から、

「水害=まず床をめくる」

という考えが、自分の中では当たり前になっていたのです。

ところが、今回の講習を受けて、その考え方は少し変わりました。

水害後、最初にすることは「床をめくる」ことではない

中谷先生のお話でまず印象に残ったのが、

水害直後は、床板をめくることよりも、濡れた家財の仕分けから始める

ということでした。

水害によって室内に入ってきた泥水には、泥や汚れだけでなく、さまざまな有機物や菌などが含まれています。

そして濡れた家財そのものが、室内を汚染する原因にもなります。

そのため、まずは濡れた家財を外へ運び出し、

「捨てるもの」
「残したいもの」

などに分ける。

さらに、屋外で置き場所を分けることで、室内への汚染の拡大を防ぎます。

私はこれまで、水害現場に入ると、

「とにかく床下を何とかしなければ」

という気持ちが先にありました。

しかし、よく考えてみれば、そのために床板を先にめくることで、汚染された床下の空気や泥などが室内に上がってくる可能性があります。

つまり、

良かれと思って始めた作業が、かえって室内の汚染を広げてしまう可能性がある。

これは今回の講習で得た、大きな気づきでした。

水害後に大切なのは「除去・清掃・乾燥」

水害からの復旧で重要なのは、何か特別な薬剤を使って消毒することよりも、まず原因となるものを取り除くことだそうです。

基本となる考え方は、

有機物の除去

泥や汚れなど、カビの栄養源となるものを物理的に取り除く。

徹底した清掃

洗浄することで、建物に付着した汚染物質をできるだけ取り除く。

速やかな乾燥

換気、送風、除湿などを組み合わせ、できるだけ早く湿気を下げる。

そして、

消毒はあくまでも補助的なもの。

有機物や湿気が残ったまま消毒しても、その効果は限定的です。

水害が起こると、建物の中には「水」「有機物」「酸素」が揃います。

これはカビなどが発生しやすい環境です。

だからこそ、水が引いた後は時間との勝負になります。

講習では、浸水から48時間を超えると、カビなどのアウトブレイクの危険性が高まるという話もありました。

「何を残すか、何を捨てるか」

それを考えている間にも、建物の中では汚染が進んでしまう。

水害後の対応は、単純に「濡れたものを乾かせばいい」という話ではないのだと、改めて感じました。

床下は「屋外」と考える

もう一つ印象に残ったのが、

床下は、あくまでも屋外として考える

という考え方です。

もちろん、床下は建物の一部です。

しかし、水害直後の床下には泥や汚染物質が入り込みます。

そこへ不用意に人が入り、作業をすることで、汚染物質を室内へ持ち込んでしまうことがあります。

そのため、床下に入る必要がある場合も、できるだけ最小限にする。

そして送風機などを使い、まず乾燥を進める。

これまでの自分の経験では、

「床下に入って泥を出す」

ことが水害復旧の第一歩でした。

しかし今回の講習では、

「まず触らない」という判断も、水害復旧の重要な選択肢になる

ということを学びました。

現場経験があるからこそ、こうした新しい知識を知った時に、その意味がよく分かります。

実は「水害に遭ってから」では遅いこともある

今回の講習を受けて、もう一つ思い出した建物があります。

以前、敷地の三方を水路に囲まれた土地に住宅を設計したことがありました。

その土地は、過去に大雨によって水路から水があふれ、敷地が浸水したことがある土地でした。

お客様もそのことを理解された上で土地を購入され、私に設計をご依頼くださいました。

当然ですが、設計段階から水害対策を考える必要があります。

そこで私は、住宅の基礎を通常より高くする「高基礎」を採用しました。

そして住宅が完成した後、実際に大雨が降り、水路の水があふれました。

敷地は再び水に浸かりました。

しかし、不幸中の幸いだったのは、

高基礎にしていたことで、床上浸水を免れ、床下浸水で済んだことです。

もちろん、床下浸水でも被害がなくなるわけではありません。

それでも、床上まで水が入るのと、床下で止まるのでは、その後の復旧に必要な労力も費用も大きく変わります。

水害が起こってから、

「どうやって復旧するか」

を考えることも大切です。

しかしそれ以上に、

「どうすれば被害そのものを小さくできるか」

を建物をつくる前に考えておくことも重要なのだと思います。

水害対策は「設備」ではなく「設計」から考える

洪水や豪雨という自然災害そのものを止めることは、私たちにはできません。

だからこそ建築では、

「水害が起こらないこと」

を前提にするのではなく、

「もし浸水したら、どこまで被害を抑えられるか」

という視点が必要なのだと思います。

敷地の高さはどうなのか。

周辺の水路はどうなっているのか。

過去に浸水したことはないのか。

床の高さをどう設定するのか。

基礎をどのようにするのか。

水が入った場合、どこまで被害を受けるのか。

そして、復旧しやすい構造や仕上げになっているのか。

こうしたことを設計の段階で考えておけば、万一の水害が起こったときにも、被害を小さくできる可能性があります。

今回の講習を受けて、私は改めて、

建築は「災害が起こらない家」をつくるだけではなく、「災害が起こった後に立ち直りやすい家」をつくることも大切なのだ

と感じました。

災害は、いつ起こるか分からない

2014年に水害現場で泥を掻き出していた時の私は、目の前の建物をどうやって元に戻すかで精一杯でした。

あれから時間が経ち、今回の講習で改めて水害について学びました。

経験したからこそ分かることがあります。

そして、経験したからこそ、後から学び直すことで見えてくることもあります。

「ここは床上まで水を入れないようにするにはどうしたらいいか」

「浸水してしまったとしても、復旧しやすくするにはどうすればいいか」

「そもそも、この土地で家を建てる場合に、どのようなリスクがあるのか」

家づくりでは、デザインや間取り、断熱性能だけでなく、こうした目には見えにくいリスクについても考えておく必要があります。

水害は、起こってから考えるのではなく、

起こる前に、どこまで備えられるか。

それもまた、建築設計の大切な仕事の一つなのだと思います。

芦田成人建築設計事務所では、土地の状況や周辺環境、過去の災害履歴なども確認しながら、その土地に合わせた住まいのつくり方を考えています。

「この土地は大雨のとき大丈夫なのだろうか?」

そんな不安がある場合も、土地を購入する前、あるいは家づくりを始める前に、一度ご相談ください。

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リノベの勘所 第2話