兵庫、京都、大阪|良い実が、良い土から育つように。暮らしを主役に、建築は健やかに支える。|芦田成人建築設計事務所

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兵庫県丹波市を拠点に誠実に、これからの木の住まいづくりに向き合う芦田成人建築設計事務所 芦田成人のブログです。

遅効性の土づくり、建築もまた“効き始めるまで”を設計する

剪定を終えた栗の木に、週末は肥料を入れました。
使ったのは有機肥料である牛糞、牧場から直送して貰って数年寝かせたもので
正直「綺麗な作業」ではありません。
でも、これは汚いものではなく、自然の循環そのものだと思っています。
命が巡って、土に戻り、次の季節の力になる。
人の暮らしも、建築も、本当はこの循環の上に乗っている。

牛糞は遅効性です、直ぐに効くタイプではない
化学肥料ももちろん良い、狙いどころが明確で、反応も早い。
ただ、栗は結果が出るまでに時間がかかります。
だから今は、木を急かすより、土を育てるほうが筋との判断です。
実を直接「太らせる」より、実が育つ土台を整える
遠回りに見える道が、いちばん確実な道になることがある

この「遅効性」という考え方は、設計の現場でもよく似ています。
短期的な満足をつくる方法はいくらでもあります。
見た目の変化、設備の追加、派手な提案、
けれど、暮らしの質を静かに底上げするのは、たいてい“遅効性”の部分です。
断熱・気密、日射の扱い、湿気の逃がし方、耐震、素材の選び方、納まりの丁寧さ

住み始めた直後よりも、数年後、十数年後に「あの判断が効いている」と分かる領域がある。
建築は、すぐ効くものだけで組み立てると、あとで必ず歪みが出ます。

牛糞が「土を作る」というのも、まさにそこです。
土が変われば根が変わる、根が変われば木が変わる、木が変われば実が変わる。
目に見える成果は最後に出てくる。
だからこそ、目に見えない最初の一手を雑にしない。

肥料は木の状況を見極めて幹から少し離して与えます。
幹の近くに寄せすぎても効きが良くないからです。
効かせたいからといって、近づければいいわけじゃない。

これも設計と同じで、効かせたい性能ほど“距離”や“余白”が要ります。
木部と水を近づけすぎない、熱や湿気が溜まる場所をつくらない。
構造に無理をかけない、意図して離すことで、長く健やかに効いてくる。

そして何より、この作業はかなりの重労働です。
運ぶ、撒く、ならす。地味で、派手さはない。
でも、こういう作業を省いた年ほど、あとからツケが回ってくるもの。

設計も同じで、目立たない検討に体力を使うほど、完成後の暮らしが軽くなる。
こちらが先に重さを引き受ける。住まい手の毎日から、その重さを減らすために。

栗の実りは、今日明日には見えません。けれど、土は確実に変わり始めています。
建築もまた、完成の日がゴールではなく、そこから先の時間に効いていくもの。
遅効性の一手を、今年も丁寧に積み重ねていきます。

Narito Ashida