10分前には通れた道が・・・
2014年の豪雨災害により被害を受けた村の山
昨夜は、私が住む丹波市でも夜遅くまで雷が鳴り響き、かなり激しい雨が降りました。
幸い、雨は一晩中降り続くことはなく、大きな災害も発生しませんでした。
しかし、激しい雷鳴を聞きながら、私は12年前のある夜のことを思い出していました。
2014年のことです。
その夜は、夜10時頃に眠りにつこうとした時には、すでに雨が降り始めていました。
やがて雷が鳴り始めました。
最初は「よく降るな」という程度だったと思います。
ところが、雨も雷もなかなか止みません。
いつまで経っても降り続く雨。
夜空を切り裂くように何度も鳴り響く雷。
あまりにも激しい雨と雷が続くので、次第に「この世の終わりではないか」と思うほどになり、ふと頭に浮かんだのが、旧約聖書に出てくる「ノアの箱舟」の話でした。
その当時、私は村の組長をしていました。
そして夜中の3時頃。
雷が鳴り響き、豪雨が降り続く中、各組の組長が呼び出されました。
指示されたのは、土嚢を積むこと。
真夜中の豪雨の中での作業です。
一通りの役目を終え、ようやく家に戻ろうと車に乗りました。
その時のことは、今でもはっきり覚えています。
家に向かう道は、普段から何度も通っている、何の変哲もない道です。
ところが、車を走らせていると、先ほどまで普通に通れた道路が冠水し始めていました。
「これは、このまま進んだら危ない」
そう思いました。
あと少し進んでしまえば、車が水につかって動かなくなるかもしれない。
そこで、いったんバックすることにしました。
しかし、外は依然として猛烈な雨。
ワイパーを動かしても前が見えにくい。
まして、バックですから後ろの状況はほとんど分かりません。
普段なら何でもない運転なのに、その時は恐ろしくて仕方がありませんでした。
幸い、何度も通っている慣れた道だったため、道路の真ん中あたりを慎重に走りながら、何とか冠水した場所を迂回することができました。
ただ、今思えば、かなり危険な状況だったと思います。
慣れた道だから大丈夫。
いつも通っている道だから大丈夫。
そんな感覚は、豪雨の前では簡単に崩れてしまいます。
道路の端には側溝があります。
普段なら何気なく見過ごしている側溝も、道路が冠水してしまえば、その位置すら分からなくなります。
もしタイヤを側溝に落としていたら、車は動けなくなっていたかもしれません。
そして夜が明けました。
今度は、別の場所で問題が起きていました。
狭い水路に流木が詰まっていたのです。
水の流れがせき止められ、その周辺の道路には、たちまち水があふれ始めました。
昨日まで何ともなかった場所が、一晩でまったく違う姿になっていました。
あの時ほど「死」を意識したことは、今でもほとんどありません。
だからこそ、昨夜の雷と豪雨を聞きながら、12年前のことを思い出したのだと思います。
災害というのは、テレビの中で起こるものではありません。
どこか遠くの地域で起こる特別な出来事でもありません。
普段歩いている道路。
いつも車で通っている道。
家のすぐ近くにある水路。
そして、毎日暮らしている自分の家。
そうした「いつもの風景」が、雨の降り方ひとつで、まったく違うものになることがあります。
建築の仕事をしていると、どうしても建物そのものに目が向きます。
耐震性はどうか。
断熱性能はどうか。
雨漏りはしないか。
どんな材料を使うか。
もちろん、これらは住宅を考えるうえで大切なことです。
しかし、災害について考える時には、建物だけを見ていてはいけないのだと思います。
その家は、どんな場所に建っているのか。
敷地の周囲には、どんな水路があるのか。
道路より敷地は高いのか低いのか。
大雨が降った時、水はどこへ流れていくのか。
そして、もし道路が冠水した時、家から安全に避難できるのか。
「災害に強い家」というと、丈夫な構造の家を思い浮かべるかもしれません。
もちろん、それも大切です。
しかし、本当に災害に強い住まいを考えるなら、建物だけでなく、敷地と周辺環境まで含めて考えることが必要なのではないでしょうか。
昨夜の豪雨は、幸い大きな被害にはなりませんでした。
けれども、あの2014年の夜を経験した私にとっては、改めて災害への備えを考えるきっかけになりました。
「まさか、ここまでは降らないだろう」
「この辺りは大丈夫だろう」
私たちは普段、そんなふうに考えながら暮らしています。
でも、災害は「まさか」と思っている時にやってきます。
そして、その時になって初めて、
「こんなところに水が流れてくるのか」
「ここが通れなくなるのか」
「ここにこんな水路があったのか」
と気づくことがあります。
だからこそ、何も起きていない今のうちに、一度、自分の住んでいる場所を見直してみる。
それだけでも、災害への備えの第一歩になるのではないでしょうか。
家をつくることは、単に建物をつくることではありません。
その土地で、これから何十年と暮らしていく場所をつくることです。
だから私は、建物だけでなく、その土地が持っている特徴や、周囲の環境にも目を向けながら、住まいを考えていきたいと思っています。
昨夜の雨が過ぎ去った今、そんなことを改めて考えています。