リノベの勘所 第7話
洗面脱衣所のリノベーション事例
水回りの移動は、意外と難しい
リノベーションを考えるとき、間取りと並んでよく話題になるのが、水回りの位置です。
キッチンを対面式にしたい。洗面所を広くしたい。浴室をもう少しゆったりさせたい。
洗濯機を脱衣室に置いて、洗濯の動線を短くしたい。トイレの位置を変えたい。
どれも、日々の暮らしを考えれば自然な要望です。
特に古い住宅では、水回りの配置が今の生活に合っていないことも少なくありません。
だからこそ、リノベーションを機に使いやすい位置へ移動したくなるのでしょう。
ただ、ここで一つ知っておいていただきたいことがあります。
水回りは、家具のように簡単に移動できるものではありません。
キッチンや浴室を移動するには、設備だけでなく、配管や建物の構造まで考える必要があります。
そして、その移動が本当に暮らしやすさにつながるのかも、考えておきたいところです。
キッチンを移動するだけ、では済まない
例えば、壁付けのキッチンを対面式に変更したいとします。
キッチン本体を新しくして、向きを変える。
図面上では、それほど難しいことには見えないかもしれません。
しかし、実際にはいくつもの検討事項があります。
まず、給水と給湯の配管。そして、排水管。
さらに、換気設備や排気ダクト、電気配線なども関係します。
特に注意したいのが、排水です。
排水は、基本的に勾配を確保して流す必要があります。
キッチンを移動した結果、排水管が長くなったり、床下の高さが足りなかったりすると、計画どおりに配管できない場合があります。
床下に十分な空間があるのか? 排水管をどの経路で通すのか? 必要な勾配を確保できるのか?
こうした条件を確認しなければなりません。
つまり、キッチンの位置を決めることと、キッチンを実際に移動できることは、別の話なのです。
床下を見て初めて分かることがある
新築であれば、設備の位置を決めた上で、配管経路などの計画をできます。
一方、既存住宅では、すでに建物ができあがっています。
床下の高さ、基礎の位置、土台や大引などの構造材、既存の給排水管。
これらの条件によって、できることが変わります。
図面上では問題がなさそうでも、実際に床下を確認すると、想定していた経路に配管を通せないことがあります。
反対に、現地を確認した結果、思っていたより自由度が高いと分かる場合もあります。
だからこそ、リノベーションでは図面だけで判断しないことが大切です。
見えない部分を確認せずに、できるとも、できないとも、簡単には言えません。
水回りの移動で工事費が変わる理由
水回りを移動すると、設備本体の費用以外にも工事が発生します。
例えば、
給水・給湯・排水管の移設、床や壁の解体と復旧、電気配線の変更
換気設備や排気ダクトの変更、必要に応じた床下地や構造部分の調整
既存設備の撤去と処分などです。
もちろん、建物の状態や移動距離、設備の種類によって工事内容は異なります。
同じキッチンの交換でも、既存の位置で交換する場合と、別の場所へ移動する場合とでは、
必要な工事が大きく変わることがあります。
だから、設備のカタログに掲載されている価格だけでは、工事全体の費用は分かりません。
設備をいくらで買うかだけでなく、それを使える状態にするために何が必要なのか?
そこまで考える必要があります。
水回りを移動すれば、暮らしやすくなるのか?
ここで、もう一つ考えたいことがあります。
それは、「水回りを移動すること自体が、本当に目的なのか?」ということです。
例えば、キッチンが使いにくいと感じている場合。
原因は、本当にキッチンの位置でしょうか?
調理台が狭いのかもしれません、収納が足りないのかもしれません、
冷蔵庫の位置が悪いのかもしれません、食器棚との距離が長いのかもしれません、
家族がキッチンの周りを頻繁に通るため、落ち着いて作業できないのかもしれません
こうした問題であれば、キッチンを移動しなくても解決できる可能性があります。
設備の位置を変える前に、まずは何が不便なのかを整理する。
その上で、配置を変える必要があるのかを判断する。
これが大切です。
不便の原因を解決することと、設備の位置を変えることは、必ずしも同じではありません。
洗濯の動線は、距離だけで決めない
例えば、洗濯機を浴室の近くに置き、洗濯物を干す場所までの動線を短くしたいとします。
これは、日々の家事負担を軽くする上で、合理的な考え方です。
ただし、距離を短くすることだけに注目すると、別の問題が見えてこないことがあります。
洗濯物をどこに干すのか? 雨の日はどうするのか? 乾いた洗濯物をどこに収納するのか?
家族の衣類は、どこで着替えるのか? タオルや洗剤は、どこに収納するのか?
これらを一緒に考えると、単に洗濯機の位置を変えるだけでは、十分でないことが分かります。
例えば、洗う、干す、取り込む、たたむ、収納するという一連の動作を整理すれば、
必ずしも水回りを大きく移動しなくても、家事が楽になる場合があります。
間取りを考えるときは、設備の位置だけでなく、人の動きまで考える。
これは、キッチンや浴室、洗面所にも共通する考え方です。
古い住宅では、設備だけを新しくしても解決しない
古い住宅のリノベーションでは、水回りの老朽化も大きな問題です。
給排水管が古くなっている、床下で漏水している、
浴室の周囲に傷みがある、湿気によって木材が劣化している、
こうした問題が隠れている場合もあります。
新しいキッチンや浴室を設置すれば、見た目はきれいになります。
しかし、見えない部分に問題が残っていれば、せっかくのリノベーションが十分なものにならない可能性があります。
だから、水回りを改修するときには、設備の交換だけでなく、周囲の床や壁、床下の状態、配管の状況も確認したいところです。
場合によっては、設備の位置を変えることよりも、既存部分の補修や配管の更新を優先した方がよいこともあります。
新しい設備を入れることと、建物を健全な状態にすること。その両方を考える必要があります。
あえて移動しない、という選択
ここまで読むと、水回りの移動には難しいことが多いと感じられるかもしれません。
もちろん、移動した方が暮らしやすくなる場合はあります。
対面式キッチンにすることで、料理をしながら家族と会話ができる。
洗面所を広げることで、朝の支度がしやすくなる。
洗濯動線を整理することで、毎日の家事が楽になる。
こうした変化には、十分な価値があります。
ただ、すべての水回りを移動する必要はありません。
既存の位置を活かせば、配管工事を抑えられる場合があります。
床や壁の解体範囲を小さくできることもあります。
その分の予算を、断熱改修や耐震補強、収納の改善などに回せる可能性もあります。
もちろん、既存の位置に問題があるなら、移動を検討すべきです。
大切なのは、移動することを前提にするのではなく、移動する価値があるかどうかを考えることです。
変えることが目的ではありません。変えることで、暮らしがどう良くなるのかが大切なのです。
リノベーションは、予算の使い方を考える仕事でもある
住宅の改修では、やりたいことが次々に出てきます。
キッチンを新しくしたい、浴室を広くしたい、洗面所を使いやすくしたい、
間取りも変えたい、断熱性能も高めたい、耐震性も改善したい
しかし、予算には限りがあります。
だからこそ、それぞれの工事にどのような効果があるのかを考え、優先順位をつける必要があります。
例えば、水回りの移動に大きな費用がかかるのであれば、その費用をかけて得られる暮らしの変化と、
ほかの工事に予算を使った場合の効果を比較してみる。
その結果、移動する方がよいと判断することもあれば、既存の位置を活かす方が合理的だと判断することもあります。
どちらが正しいかは、建物の状態や住む人の希望によって異なります。
だから私は、単に要望をそのまま形にするだけではなく、
限られた予算をどこに使えば、これからの暮らしが最も良くなるのかを一緒に考えたいと思っています。
水回りの位置を決める前に、暮らしを見直す
キッチンを移動する、浴室を移動する、洗面所を広げる、トイレの位置を変える
こうした計画を考えるとき、最初に確認したいのは、設備の種類や配置だけではありません。
今、何に困っているのか? どんな家事を楽にしたいのか? 家族はどのように動いているのか?
これから、どんな暮らしをしたいのか? そして、建物には何ができて、何が難しいのか?
これらを整理してから、具体的な配置を考えていきます。
場合によっては、希望していた場所に移動することが難しいかもしれません。
別の位置の方が、使いやすくなるかもしれません。
あるいは、移動しない方が合理的かもしれません。
大切なのは、最初に思い描いた方法に固執しないことです。
要望をそのまま実現することだけが、良い設計ではありません。
要望の奥にある目的を理解し、より良い方法を探すことも設計の役割です。
リノベの勘所
水回りの移動は、設備の位置を変えるだけではない。
配管を考える、建物の構造を確認する、工事費を整理する
そして、毎日の暮らしを見直す
その上で、移動するのか、既存の位置を活かすのかを判断する。
新しい設備を入れることだけを考えるのではなく、家全体を見渡して、何を変えるべきかを考える。
それが、リノベーションの設計です。
「どこに移動できますか?」と考える前に、「なぜ、そこに移動したいのですか?」と考えてみる。
その答えの中に、より良い住まいをつくるヒントがあるのだと思います。