リノベの勘所 第7話
洗面脱衣所のリノベーション事例
水回りの移動は、意外と難しい
リノベーションを考えるとき、間取りと並んでよく話題になるのが、水回りの位置です。
キッチンを対面式にしたい。洗面所を広くしたい。浴室をもう少しゆったりさせたい。
洗濯機を脱衣室に置いて、洗濯の動線を短くしたい。トイレの位置を変えたい。
どれも、日々の暮らしを考えれば自然な要望です。
特に古い住宅では、水回りの配置が今の生活に合っていないことも少なくありません。
だからこそ、リノベーションを機に使いやすい位置へ移動したくなるのでしょう。
ただ、ここで一つ知っておいていただきたいことがあります。
水回りは、家具のように簡単に移動できるものではありません。
キッチンや浴室を移動するには、設備だけでなく、配管や建物の構造まで考える必要があります。
そして、その移動が本当に暮らしやすさにつながるのかも、考えておきたいところです。
キッチンを移動するだけ、では済まない
例えば、壁付けのキッチンを対面式に変更したいとします。
キッチン本体を新しくして、向きを変える。
図面上では、それほど難しいことには見えないかもしれません。
しかし、実際にはいくつもの検討事項があります。
まず、給水と給湯の配管。そして、排水管。
さらに、換気設備や排気ダクト、電気配線なども関係します。
特に注意したいのが、排水です。
排水は、基本的に勾配を確保して流す必要があります。
キッチンを移動した結果、排水管が長くなったり、床下の高さが足りなかったりすると、計画どおりに配管できない場合があります。
床下に十分な空間があるのか? 排水管をどの経路で通すのか? 必要な勾配を確保できるのか?
こうした条件を確認しなければなりません。
つまり、キッチンの位置を決めることと、キッチンを実際に移動できることは、別の話なのです。
床下を見て初めて分かることがある
新築であれば、設備の位置を決めた上で、配管経路などの計画をできます。
一方、既存住宅では、すでに建物ができあがっています。
床下の高さ、基礎の位置、土台や大引などの構造材、既存の給排水管。
これらの条件によって、できることが変わります。
図面上では問題がなさそうでも、実際に床下を確認すると、想定していた経路に配管を通せないことがあります。
反対に、現地を確認した結果、思っていたより自由度が高いと分かる場合もあります。
だからこそ、リノベーションでは図面だけで判断しないことが大切です。
見えない部分を確認せずに、できるとも、できないとも、簡単には言えません。
水回りの移動で工事費が変わる理由
水回りを移動すると、設備本体の費用以外にも工事が発生します。
例えば、
給水・給湯・排水管の移設、床や壁の解体と復旧、電気配線の変更
換気設備や排気ダクトの変更、必要に応じた床下地や構造部分の調整
既存設備の撤去と処分などです。
もちろん、建物の状態や移動距離、設備の種類によって工事内容は異なります。
同じキッチンの交換でも、既存の位置で交換する場合と、別の場所へ移動する場合とでは、
必要な工事が大きく変わることがあります。
だから、設備のカタログに掲載されている価格だけでは、工事全体の費用は分かりません。
設備をいくらで買うかだけでなく、それを使える状態にするために何が必要なのか?
そこまで考える必要があります。
水回りを移動すれば、暮らしやすくなるのか?
ここで、もう一つ考えたいことがあります。
それは、「水回りを移動すること自体が、本当に目的なのか?」ということです。
例えば、キッチンが使いにくいと感じている場合。
原因は、本当にキッチンの位置でしょうか?
調理台が狭いのかもしれません、収納が足りないのかもしれません、
冷蔵庫の位置が悪いのかもしれません、食器棚との距離が長いのかもしれません、
家族がキッチンの周りを頻繁に通るため、落ち着いて作業できないのかもしれません
こうした問題であれば、キッチンを移動しなくても解決できる可能性があります。
設備の位置を変える前に、まずは何が不便なのかを整理する。
その上で、配置を変える必要があるのかを判断する。
これが大切です。
不便の原因を解決することと、設備の位置を変えることは、必ずしも同じではありません。
洗濯の動線は、距離だけで決めない
例えば、洗濯機を浴室の近くに置き、洗濯物を干す場所までの動線を短くしたいとします。
これは、日々の家事負担を軽くする上で、合理的な考え方です。
ただし、距離を短くすることだけに注目すると、別の問題が見えてこないことがあります。
洗濯物をどこに干すのか? 雨の日はどうするのか? 乾いた洗濯物をどこに収納するのか?
家族の衣類は、どこで着替えるのか? タオルや洗剤は、どこに収納するのか?
これらを一緒に考えると、単に洗濯機の位置を変えるだけでは、十分でないことが分かります。
例えば、洗う、干す、取り込む、たたむ、収納するという一連の動作を整理すれば、
必ずしも水回りを大きく移動しなくても、家事が楽になる場合があります。
間取りを考えるときは、設備の位置だけでなく、人の動きまで考える。
これは、キッチンや浴室、洗面所にも共通する考え方です。
古い住宅では、設備だけを新しくしても解決しない
古い住宅のリノベーションでは、水回りの老朽化も大きな問題です。
給排水管が古くなっている、床下で漏水している、
浴室の周囲に傷みがある、湿気によって木材が劣化している、
こうした問題が隠れている場合もあります。
新しいキッチンや浴室を設置すれば、見た目はきれいになります。
しかし、見えない部分に問題が残っていれば、せっかくのリノベーションが十分なものにならない可能性があります。
だから、水回りを改修するときには、設備の交換だけでなく、周囲の床や壁、床下の状態、配管の状況も確認したいところです。
場合によっては、設備の位置を変えることよりも、既存部分の補修や配管の更新を優先した方がよいこともあります。
新しい設備を入れることと、建物を健全な状態にすること。その両方を考える必要があります。
あえて移動しない、という選択
ここまで読むと、水回りの移動には難しいことが多いと感じられるかもしれません。
もちろん、移動した方が暮らしやすくなる場合はあります。
対面式キッチンにすることで、料理をしながら家族と会話ができる。
洗面所を広げることで、朝の支度がしやすくなる。
洗濯動線を整理することで、毎日の家事が楽になる。
こうした変化には、十分な価値があります。
ただ、すべての水回りを移動する必要はありません。
既存の位置を活かせば、配管工事を抑えられる場合があります。
床や壁の解体範囲を小さくできることもあります。
その分の予算を、断熱改修や耐震補強、収納の改善などに回せる可能性もあります。
もちろん、既存の位置に問題があるなら、移動を検討すべきです。
大切なのは、移動することを前提にするのではなく、移動する価値があるかどうかを考えることです。
変えることが目的ではありません。変えることで、暮らしがどう良くなるのかが大切なのです。
リノベーションは、予算の使い方を考える仕事でもある
住宅の改修では、やりたいことが次々に出てきます。
キッチンを新しくしたい、浴室を広くしたい、洗面所を使いやすくしたい、
間取りも変えたい、断熱性能も高めたい、耐震性も改善したい
しかし、予算には限りがあります。
だからこそ、それぞれの工事にどのような効果があるのかを考え、優先順位をつける必要があります。
例えば、水回りの移動に大きな費用がかかるのであれば、その費用をかけて得られる暮らしの変化と、
ほかの工事に予算を使った場合の効果を比較してみる。
その結果、移動する方がよいと判断することもあれば、既存の位置を活かす方が合理的だと判断することもあります。
どちらが正しいかは、建物の状態や住む人の希望によって異なります。
だから私は、単に要望をそのまま形にするだけではなく、
限られた予算をどこに使えば、これからの暮らしが最も良くなるのかを一緒に考えたいと思っています。
水回りの位置を決める前に、暮らしを見直す
キッチンを移動する、浴室を移動する、洗面所を広げる、トイレの位置を変える
こうした計画を考えるとき、最初に確認したいのは、設備の種類や配置だけではありません。
今、何に困っているのか? どんな家事を楽にしたいのか? 家族はどのように動いているのか?
これから、どんな暮らしをしたいのか? そして、建物には何ができて、何が難しいのか?
これらを整理してから、具体的な配置を考えていきます。
場合によっては、希望していた場所に移動することが難しいかもしれません。
別の位置の方が、使いやすくなるかもしれません。
あるいは、移動しない方が合理的かもしれません。
大切なのは、最初に思い描いた方法に固執しないことです。
要望をそのまま実現することだけが、良い設計ではありません。
要望の奥にある目的を理解し、より良い方法を探すことも設計の役割です。
リノベの勘所
水回りの移動は、設備の位置を変えるだけではない。
配管を考える、建物の構造を確認する、工事費を整理する
そして、毎日の暮らしを見直す
その上で、移動するのか、既存の位置を活かすのかを判断する。
新しい設備を入れることだけを考えるのではなく、家全体を見渡して、何を変えるべきかを考える。
それが、リノベーションの設計です。
「どこに移動できますか?」と考える前に、「なぜ、そこに移動したいのですか?」と考えてみる。
その答えの中に、より良い住まいをつくるヒントがあるのだと思います。
リノベの勘所 第6話
リノベーションにあたり、解体した現場の様子
間取り変更は「壁を壊す」ことではない
リノベーションの相談を受けていると、よくこんな話があります。
「この壁を取って、LDKを広くしたいんですが・・・」、「和室とリビングをつなげたい」、「キッチンをこちらに移動したい」
どれも、リノベーションではよくある要望です。
そして、それを聞くと、「では、この壁を壊しましょう」と考えてしまいそうになります。
でも、私は少し違うところから考えます。
「その壁を壊したら、どんな暮らしになるのか?」です。
間取り変更は、壁を壊すことが目的ではありません。
その先にある、「どんな暮らしをしたいのか」を実現するための手段です。
「壁をなくせば広くなる」は、本当でしょうか?
例えば、6畳の部屋と8畳の部屋の間にある壁を取り払えば、単純に考えれば14畳の一つの空間になります。
確かに、物理的には広くなります。
でも、「広くなった=暮らしやすくなった」とは限りません。
家具をどこに置くのか? テレビを見る場所はどこなのか? 食事をする場所はどこなのか? 子どもはどこで遊ぶのか?
洗濯物はどこに干すのか? 冬に陽射しが入りやすいのはどこか?
そして、家族それぞれが一人になりたいとき、どこに行くのか?
こうしたことまで考えて初めて、間取りの変更に意味が出てきます。
ただ壁をなくして大きな部屋をつくるだけなら、設計というより「解体」に近いかもしれません。
その壁、本当に取っていい壁ですか?
もう一つ、リノベーションで忘れてはいけないことがあります。
それが構造です、前回、耐震補強について書きました。
既存住宅の場合、壁には単なる「間仕切り」として存在しているものだけではなく、建物を支えている重要な壁が含まれていることがあります。
筋交いが入っている、耐力面材が使われている、柱や梁と一体となって建物を支えている。
あるいは、その壁をなくすことで、別の場所に負担が集中する。
見た目だけでは、それが分からないこともあります。
だから、「この壁をなくしたい」という要望が出てきたとき、
「取れるか、取れないか」だけで判断するのではなく、
「取った場合、建物はどうなるのか?」を確認する必要があります。
これはリノベーションの基本です。
古い家ほど「間取り図」だけでは分からない
新築住宅の場合、設計段階から構造を含めて計画します。
一方、既存住宅では、実際の建物を見てみると図面と違っていることがあります。
増築されていたり、以前にリフォームされていたり、図面が残っていない、
柱や梁の位置が想定と違う、壁の中に筋交いが入っている、
床下や天井裏を確認して初めて分かることもあります。
つまり、
既存住宅のリノベーションは、図面だけを見て設計するものではありません。
実際の建物を見て、壊して、確認して、また考える。
そうした作業が必要になります。
だからこそ、リノベーションでは「現場を見ること」が非常に重要なのです。
「残す」という選択肢もある
ここで、第1話の内容を振り返ってみます。
リノベーションでは、「何を変えるか」だけではなく「何を残すか」も考える必要があります。
例えば、昔ながらの建具、土壁、庭とのつながり、当時の職人が凝らした趣向など
これらは、すべて取り払って新しくすれば良いというものではありません。
むしろ、新築では簡単につくれないものもあります。
だから、「古いから新しくする」ではなく、「この家にしかないものは何だろう?」と考えてみる。
その上で、残すものと変えるものを決めていきます。
「開ける」だけでなく「閉じる」ことも考える
最近は、開放的な間取りが好まれる傾向があります。
広いLDK、大きな窓、間仕切りの少ない空間、もちろん、それは魅力的です。
でも、家の中には「閉じておきたい場所」もあります。
集中して仕事をしたり、子どもが勉強したり、少し一人になりたい、
来客時には生活感を隠したい、寝室は落ち着いた空間にしたい
つまり、良い間取りとは、全部を開放することではありません。
「開くところ」と「閉じるところ」、「つなげるところ」と「分けるところ」。
そのバランスを考えることが重要です。
古い家だからこそできる間取りもある
既存住宅のリノベーションには、新築とは違う面白さがあります。
その条件を読みながら、新しい暮らしを組み立てていきます。
すべてを一度壊してしまえば、自由になるように思えます。
しかし、実はそうとも限りません。
既存の条件があるからこそ、「ここを残して、ここを変える」
という設計が生まれます。制約があるからこそ、できることもあります。
そして、予算も忘れてはいけない
間取りを大きく変えるほど、工事も大きくなる傾向があります。
壁を壊したり、柱を移動したり、梁を補強したり、電気配線をやり直したり
場合によっては、給排水設備も移動する。
一つの壁をなくすだけのつもりが、思った以上に工事範囲が広がることがあります。
だからこそ、「この間取りにしたい」だけではなく、
「この暮らしのために、どこまで工事をする価値があるのか」
を考えることが大切です。
リノベーションでは、限られた予算の中で、すべてを理想通りにすることが難しい場合もあります。
だからこそ、何にお金をかけるのか。
何を残すのか、何を諦めるのか、そこにも設計の力が必要になります。
「新築のような間取り」にする必要はない
リノベーションの完成写真を見ると「これが古い家だったの?」と思うような事例もあります。
それは、とても魅力的に見えます。
でも、私は必ずしも「新築のようにすること=良いリノベーション」だとは思いません。
古い家には、古い家の良さがあります。
建具や土壁、そこに積み重なった時間。
それらを全部消してしまうのではなく、
「古い家の良さを残しながら、今の暮らしに合わせる」
という方法もあります。
それこそが、リノベーションならではの設計だと思っています。
間取りを変える前に、暮らしを考える
リノベーションの相談で「この壁を取れますか?」と聞かれたら、
私はその質問だけでは答えを出したくありません。
その壁を取って、何をしたいのか?、どんな時間を過ごしたいのか?、誰と暮らすのか?
これから家族はどう変化していくのか?
そこまで考えて「では、この壁はどうしましょう?」と考えたいのです。
場合によっては、壁を取らない方が良いかもしれませんし、もしかしたら壁を少し残した方が良いかもしれません。
別の場所に開口部をつくった方が良いかもしれません、或いは、全く違う間取りにした方が良いかもしれません。
正解は、家によって違います。
リノベーションは「解体」から始まらない
リノベーションというと、「古いものを壊して、新しいものをつくる」というイメージがあるかもしれません。
でも、本当に最初にやるべきことは、壊すことではありません。
見ること、そして、考えること
この家には何があるのか。
何が問題なのか? 何を残せるのか? 何を変える必要があるのか?
その上で「これから、ここでどんな暮らしをするのか」を考える。
それから、初めて壁を壊すかどうかを決めればいい。
リノベの勘所
間取り変更は「壁を壊す」ことではない、暮らしを変えるために、壁をどう扱うかを考えること。
広いLDKをつくることが目的ではありません、部屋を減らすことが目的でもありません、
古い家を新築のようにすることが目的でもありません
その家が持っているものを読み取り、残すものと変えるものを見極め、構造と暮らしを一緒に考える。
その結果として、新しい間取りが生まれます。
「この壁、取れますか?」その質問の前に、
「なぜ、この壁を取りたいのですか?」
と聞いてみる。
そこから、本当のリノベーションが始まるのだと思います。
リノベの勘所 第5話
耐震補強中の現場の様子
耐震補強は、どこまでやればいい?
古い家をリノベーションするとき、避けて通れない問題があります。
それが、「この家は、地震に対して大丈夫なのか?」ということです。
特に大きな地震を経験した地域では、このことを気にされる方も多いでしょう。
「せっかくリノベーションするなら、耐震補強もした方がいいですよね。」
これは、とても大切な考え方です。
ただ、ここで一つ難しい問題があります。
それは、「では、どこまで耐震補強すればいいのか?」ということです。
耐震補強は、やればやるほど良い、そう思われるかもしれません。
もちろん、安全性を高めることは重要です。
しかし、既存住宅のリノベーションでは、単純に「強くすればいい」という話ではありません。
建物の状態、間取り、予算、これから何年住むのか、そして、その家でどんな暮らしをしたいのか
それらを含めて考える必要があります。
「古い家だから危ない」とは限らない
前回の「家の健康診断」でも書きましたが、住宅は築年数だけで判断できません。
古い家だから危険、新しい家だから安心
そんな単純な話ではありません。
もちろん、建築された年代によって耐震基準が異なります。
特に1981年の建築基準法改正は、既存住宅の耐震性を考える上で一つの大きな目安になります。
ただし、同じ年代に建てられた住宅でも、建物の形状や施工状態、劣化状況によって状態は違います。
さらに、増築されている、間取りが変更されている、大きな開口部がある、屋根が重い、シロアリ被害がある
、柱や梁が劣化している、など、さまざまな条件によって耐震性は変わります。
だから、「築○年だから耐震補強が必要」
だけでは、本当の判断にはなりません。
まずは、その家の状態を知ること、そこから始まります。
耐震診断は「家の弱点」を知るためのもの
耐震診断というと、「この家は地震に強いのか、弱いのかを判定するもの」と思われがちです。
もちろん、それも重要な役割です。
しかし私は、それだけではないと思っています。
耐震診断をすることで、「この家のどこが弱いのか」を知ることができます。
例えば、この方向の壁が少ない、2階に比べて1階の壁配置が偏っている、大きな開口部がある、基礎に問題がある、など
建物の弱点が見えてくれば、どこを補強すれば効果的なのかを考えることができます。
つまり、闇雲に壁を増やすための診断ではなく、効率よく安全性を高めるための診断。
そう考えると、耐震診断の意味も分かりやすくなります。
耐震補強=壁を増やすこと、ではない
耐震補強と聞くと、「部屋の中に筋交いや壁をたくさん入れる」
というイメージを持つ方もいるかもしれません。
確かに、耐力壁を増やすことは重要な方法の一つです。
しかし、それだけではありません。
屋根を軽くする、壁の配置を見直す、接合部を補強する、基礎を補強する、劣化した部材を交換する、
床や屋根の剛性を確保する、建物全体として力が伝わるようにする、
このように、耐震改修にはさまざまに見直す部位が存在します。
そして重要なのは、「どこに、どのような補強を入れるか」です。
壁を増やせばいいからといって、家のあちこちに壁を追加すればいいわけではありません。
それは、むしろ暮らしに必要な場所を犠牲にしてしまう可能性もあります。
耐震性と暮らしやすさを両立させる
例えば、「この部屋を広いLDKにしたい」というリノベーションの要望があったとします。
ところが、その場所に耐震上重要な壁がある。
そこで、「耐震のために壁を残してください」と言うだけでは、設計者としては少し寂しい話です。
逆に、「壁を全部なくして大空間にしましょう」というのも安全性の裏付けが無く危険です。
そこで、「どうすれば、安全性を確保しながら、この暮らしを実現できるか?」を考えます。
例えば、別の位置に耐力壁を配置する、構造的な計画を見直す、
場合によっては、間取りそのものを少し変えるなど
耐震と間取りを別々に考えるのではなく、構造と暮らしを同時に設計する。
これがリノベーションの難しさであり、面白さでもあります。
どこまで耐震補強するかは、予算とも関係する
そして、現実的には予算の問題もあります。
耐震補強には費用がかかります。
さらに、断熱改修もしたい、水回りも新しくしたい、屋根も直したい、間取りも変えたい
当然、すべてを同時に行えば工事費は大きくなります。
だからこそ、「何を優先するのか」を決める必要があります。
私は、ここで大切なのは、「予算がないから耐震はやめる」という二択にしないことだと思っています。
建物の状態を確認した上で、「ここは必ずやる」、「ここはできればやる」、「ここは今回は見送る」
という優先順位をつける。
そして、将来的な改修の可能性も含めて計画する。
これも設計の仕事です。
断熱と耐震は、一緒に考える
前回、断熱について書きました。実は、耐震と断熱はリノベーションの中で非常に相性の良い工事です。
例えば、壁を解体するのであれば、そのタイミングで、
耐力壁をつくる、断熱材を入れる、気密について検討する、ということができます。
床を解体するのであれば、床下の状態を確認する、必要な補修をする、断熱する、床の剛性を確認する
ということもできます。
つまり、一つの工事をするために解体するなら、その機会を無駄にしない。
これがリノベーションでは非常に重要です。
「地震に強い家」だけをつくればいいのか?
ここで、少し立ち止まって考えてみます。住宅は、地震のためだけに存在しているわけではありません、毎日暮らす場所です。
朝起きる、ご飯を食べる、仕事をする、子どもが遊ぶ、家族で話す、庭を見る、眠る
そうした毎日の生活があります。
だから私は、耐震性だけを追い求めて、暮らしが窮屈になるようなリノベーションにはしたくありません。
もちろん、安全性は非常に重要です。
しかし、安全性、断熱性、使いやすさ、居心地、素材、コスト、そして、家族のこれから
それらを一緒に考えていく必要があります。
大切なのは「どこまでやるか」を決めること
耐震補強には、絶対的な一つの答えがあるわけではありません。
その家の状態によって違います、住む人によっても違います、予算によっても違います、これから何年住むかによっても違います
だからこそ、「どこまでやればいいですか?」という質問に対して、
「ここまでです」と簡単に答えることはできません。
まず建物を調べる、弱点を把握する、これからの暮らしを考える、その上で、必要な補強を考える
私は、それがリノベーションにおける耐震改修の基本だと考えています。
古い家を「弱い家」のまま終わらせない
古い住宅には、確かに耐震上の弱点がある場合があります。
だからといって、「古いから壊す」という結論だけが答えではありません。
そこにある柱や梁を活かしながら、必要なところを補強する、断熱性能を高める、設備を更新する、
暮らしに合わせて間取りを整える。
そうやって、「これまでの家」を「これからの家」に変えていく。
それがリノベーションの大きな役割だと思います。
家を残すということは、ただ古い建物を保存することではありません。
安全に、快適に、これからも使える状態にして、次の時間につないでいくこと。
そのために、耐震改修があります。
リノベの勘所
耐震補強は「どこまで壁を増やすか」ではない。
「この家を、これからどう使い続けるか」から考える。
耐震診断で家の弱点を知る、必要な場所を補強する
そして、断熱や間取り、設備の改修とも一緒に考える。
「耐震性」という一つの数字だけを追いかけるのではなく、
安全と暮らしやすさの両方をどう実現するか。
そこに、リノベーションの魅力があります。
リノベの勘所 第4話
断熱改修及び窓改修の様子
断熱材を入れたからOK? ではありません
「この家、冬になると本当に寒いんです。」リノベーションの御相談では、そんな話をよく聞きます。
朝、布団から出るのがつらい、暖房をつけてもなかなか暖まらない、廊下に出ると急に寒い、トイレや脱衣室が寒くて、できるだけ行きたくない。
逆に夏になると、2階が暑くて、とても寝られない。
ということもあります。
そこで、「断熱材をしっかり入れれば、暖かい家になりますよね?」
と聞かれることがあります。
もちろん、断熱はとても重要です。
しかし、リノベーションで家を暖かくすることを考えるとき
「断熱材を入れたからOK」とはなりません
家の温熱環境は、もう少し複雑だからです。
そもそも、なぜ古い家は寒いのか?
昔の住宅では、現在ほど断熱性能が重視されていませんでした。
壁や天井に十分な断熱材が入っていないことは当然、窓が単板ガラスだったり、隙間風が入りやすかったり。
さらに、昔の住宅には「家全体を暖める」というより、
人がいる部屋を人がいる時間だけ暖める
「部分間歇暖房」という考え方が殆どです。
居間にはこたつ、台所にはストーブ、寝室には電気毛布、そんな暮らしです。
そのため、
居間は暖かいけれど廊下は寒い、寝室は寒い、トイレも寒い、
という「家の中の温度差」が生まれます。
現代の暮らしでは、こうした温度差をできるだけ小さくすることが重要になっています。
断熱材だけを見てはいけない
断熱性能を高めようとすると、まず「どんな断熱材を使うか」に目が行きます。
グラスウールなのか、セルロースファイバーなのか、発泡系の断熱材なのか、もちろん、材料の選択は重要です。
しかし、それだけで住宅の温熱環境が決まるわけではありません。
例えば、壁に高性能な断熱材を入れても、窓から大量に熱が逃げていれば、家全体としての性能は十分に高まりません。
逆に、断熱材だけを厚くしても、隙間から空気が出入りしていれば、その効果を十分に発揮できません。
つまり、断熱材は「家を暖かくするための一つの部品」にすぎない。
ということです。
「窓」はリノベーションの大きなポイント
古い住宅を見ていて、特に気になるのが窓です。
昔の住宅では、現在の住宅と比べて断熱性能の低い窓が使われていることが殆どです。
窓は壁に比べると熱が出入りしやすい場所です。
冬には室内の熱が逃げていく、夏には外から熱が入ってくる。
そのため、断熱改修を考えるときには、
「壁に断熱材を入れる」だけでなく、「窓をどうするか」
を一緒に考える必要があります。
既存の窓を交換するのか、内窓を設置するのか、ガラスを変更するのか
場合によっては、窓の大きさや位置そのものを見直す。
こうした選択肢があります。
そして窓は、断熱性能だけではなく、
「どこから光を入れるか」、「どこから風を入れるか」、「庭をどう眺めるか」
という、暮らしや設計にも大きく関わります。
だからこそ、単純に「断熱性能の高い窓に交換する」だけではなく、
その窓を、これからの暮らしの中でどう使うのか
まで考える必要があります。
夏の暑さと冬の寒さは、つながっている
「冬の寒さ対策だから断熱をする。」
と思われがちですが、断熱は夏にも関係します。
夏の住宅では、外から入ってくる日射熱が大きな問題になります。
特に大きな窓から強い日差しが入れば、室内はどんどん暑くなります。
そのため、断熱する、窓の性能を高める
そして、そもそも熱を家の中に入れない「日射遮蔽」
という考え方も重要です。
庇を出す、外付けのブラインドや日除けを利用する、植栽で日射をコントロールする、
窓の向きや大きさを考える、こうした方法があります。
つまり、暑さ対策は「エアコンを強くする」だけではありません。
熱が入ってくる前に、できるだけ防ぐ。
これも建築の役割です。
「高性能エアコンを入れればいい」でもない
断熱改修の話をすると、「じゃあ、性能のいいエアコンを入れればいいのでは?」
と思うかもしれません。
もちろん、暖房・冷房設備は重要です。
しかし、断熱性能が低い家で、大きなエアコンを使って無理に暖めるという方法では、エネルギーを多く消費することになります。
反対に、建物の断熱性能を高め、熱が逃げにくい状態をつくれば、必要な暖冷房能力も変わってきます。
以前の記事でも触れたように、住宅の外皮性能を確認した上で暖冷房設備を考えることが大切です。
「大きなエアコンを入れる」のではなく、
「必要な暖冷房能力を小さくできる家にする」。
この発想が重要です。
リノベーションでは「どこまでやるか」が難しい
ここが新築とは違う、リノベーションの難しいところです。
新築なら、土地の条件を確認した上で、最初から断熱・気密・窓・設備を計画できます。
しかし、既存住宅にはすでに、柱があり、梁があり、床があり、壁があり、屋根があります。
そして、住みながら工事をすることもあります。
そのため、「全部壊して新しくする」
という方法を取らない限り、どこまで断熱改修するかは簡単ではありません。
例えば、
床はどうするのか?、壁はどこまで解体するのか?、天井はどうするのか?、既存の窓は残すのか?
新しい窓に交換するのか?
それに伴って外壁をどこまで触るのか。
こうしたことを一つずつ判断していく必要があります。
だからこそ、
「断熱性能を上げること」だけを目的にするのではなく、家全体のバランスを見る。
これがリノベーションでは大切になります。
断熱改修は「暮らしの改修」でもある
断熱性能が高くなると、単に「暖かい」というだけではありません。
冬に家の中を移動しやすくなる、脱衣室やトイレの寒さが和らぐ、
朝起きたときの寒さが軽減される、冷暖房の効き方が変わる、
部屋ごとの温度差が小さくなる。
つまり、断熱改修は、暮らし方そのものを変える可能性があります。
「冬でも家の中で薄着で過ごせるようになった」
という変化もあれば、
「今まで使っていなかった部屋を使えるようになった」
ということもあるでしょう。
断熱性能を数字で確認することも大切ですが、最終的には、その性能が
「暮らしの中でどう感じられるのか」
まで考えることが重要です。
リノベーションでは、断熱と耐震を一緒に考えたい
そして、古い住宅のリノベーションでは、もう一つ大切なことがあります。
それが耐震改修です。
壁を解体する、床をめくる、天井を撤去する
こうした工事をするのであれば、その機会に耐震性能についても検討できます。
断熱のために壁を開ける。
その壁を耐力壁として改修する、床を解体する、
その機会に床下の状態を確認する。
このように、一つの工事をきっかけに、別の問題も一緒に解決できることがあります。
だからリノベーションでは、
「断熱工事」「耐震工事」「設備工事」を別々に考えるのではなく、建物全体として考える。
ことが重要です。
暖かい家をつくることが目的ではない
ここまで断熱について書いてきましたが、私がリノベーションで目指したいのは、
単純に「暖かい家」をつくることではありません。
夏は暑くなりすぎず、冬は寒くなりすぎず、家の中の温度差ができるだけ小さく、
必要なときには自然の光や風も取り入れられる。
そんな、
「一年を通して暮らしやすい家」です。
そして、そのためには断熱材だけではなく、窓、日射、気密、気流、換気、暖冷房、間取り。
そして、その家が建っている場所。
これらを一緒に考える必要があります。
古い家だからこそ、できることがある
古い住宅のリノベーションでは、「性能が低いから、全部やり直さなければならない」
と考えがちです。
でも、そうとは限りません。その家には、その家なりの良さがあります。
深い軒、大きな窓、風の通り道、庭とのつながり、木の柱や梁、
昔の人が、その土地の気候や暮らしに合わせてつくった工夫。
それらを読み取りながら、現在の断熱・耐震・設備の考え方を組み合わせる。
そこに、古い家をリノベーションする面白さがあります。
古いものを全部捨てて、新しくするのではない。
残すものは残す、性能が不足しているところは補う、
そして、今の暮らしに合わせて整える。
それが、これからのリノベーションには必要なのではないでしょうか。
リノベの勘所
「断熱材を入れる」ことが目的ではない。
「その家で、これからどう快適に暮らすか」を考える。
壁、床、天井、窓。
そして、日射、気密、気流、換気、暖冷房。
一つひとつを別々に考えるのではなく、家全体を一つの環境として考える。
それが、古い家をこれからも長く使っていくための断熱リノベーションの勘所です。
リノベの勘所 第3話
写真はイメージですが点検商法にはお気をつけ下さい
先ずは住まいの健康診断
リノベーションの相談を受けると、
「キッチンを新しくしたい」
「寒い家を暖かくしたい」
「子どもが独立したので間取りを変えたい」
といったご要望を伺います。
もちろん、それらはリノベーションを考える大切なきっかけです。
しかし、実際に工事を考え始める前に、もう一つ大切なことがあります。
それは、
今の家が、どんな状態なのかを知ることです。
人間であれば、体の調子が悪くなったときに病院へ行きます。
そして、必要に応じて検査を受け、原因を調べます。
原因が分からないまま、いきなり薬を飲んだり手術をしたりすることはありません。
住宅も同じです。
これから何十年も住み続けるためにリノベーションをするのであれば、まずは今の家の状態を知る必要があります。
私はこれを、「家の健康診断」だと考えています。
見た目だけでは、家の状態は分からない
古い家を見るとき、多くの人はまず目に見える部分を見ます。
壁が汚れている、床が傷んでいる、キッチンが古い、お風呂が寒い、外壁の色が褪せている
こうした部分は、比較的分かりやすいものです。
しかし、住宅には普段の生活では見えない部分がたくさんあります。
例えば、
・床下
・屋根裏
・壁の内部
・基礎
・柱や梁の接合部
・給排水管
などです。
そして、本当に重要な問題は、こうした見えない部分に隠れていることがあります。
表面はきれいに見えても、床下に湿気が溜まっているかもしれません。
天井にシミがなくても、屋根裏では雨漏りが進んでいるかもしれません。
壁を壊してみると、柱が傷んでいることもあります。
だからこそ、
「見た目がきれいだから大丈夫」とも、「古いからダメ」とも、簡単には判断できません。
まず確認したい「家の4つのポイント」
リノベーション前に確認したいことはいくつもありますが、大きく分けると次の5つです。
1.構造は大丈夫か
住宅にとって最も重要なのは、やはり構造です。
基礎はどのような状態なのか、柱や梁に大きな傷みはないか、床が大きく傾いていないか、シロアリの被害はないか、耐震性は十分なのか
リノベーションでは間取りを変更することがあります。
壁を取り払って広いLDKをつくりたい、という要望も多いでしょう。
しかし、その壁が住宅を支える重要な壁だった場合、単純に取り払うことはできません。
見た目だけを変える前に、
「この家が、どのような構造で成り立っているのか」
を知る必要があります。
2.雨漏りや湿気はないか
住宅の劣化原因として、特に注意したいのが水です。
屋根からの雨漏り、外壁からの雨水の侵入、床下の湿気、配管からの漏水
水は、少しずつ建物を傷めていきます。
しかも、すぐに大きな問題として現れるとは限りません。
長い時間をかけて木材を腐らせたり、シロアリ被害を引き起こしたりすることもあります。
リノベーションで内装をきれいにしても、その原因が残ったままでは意味がありません。
だから、「まず水を止める」ことが重要です。
家を長く使うためには、見た目をきれいにする前に、建物を傷める原因を取り除かなければなりません。
3.シロアリの被害はないか
木造住宅の場合、床下の状態も重要です。
普段は見ることのない場所ですが、床下には住宅の健康状態を知るための多くの情報があります。
土台や柱にシロアリ被害はないか、木材が腐っていないか、湿気が多くないか、給排水管から水漏れしていないか。
こうしたことなどを確認します。
特に古い住宅の場合、「見た目には問題がない」
と思っていても、床下を確認すると予想以上に傷みが進んでいることがあります。
逆に、「かなり古い家だから傷んでいるだろう」と思っていたのに、床下の状態が非常に良いこともあります。
だからこそ、築年数だけでは判断できません。
4.断熱性能はどうか
昔の住宅と現在の住宅では、断熱に対する考え方が大きく違います。
冬になると家の中が寒い、暖房をつけても部屋がなかなか暖まらない、足元が冷たい、廊下やトイレに行くと急に寒くなる、
夏は2階が暑くて眠れない
こうした問題を抱えている住宅も少なくありません。
リノベーションでは、「壁を新しくする」「床を張り替える」
といった工事が行われます。
しかし、せっかく壁や床を解体するのであれば、そのタイミングで断熱性能についても考えることができます。
内装をきれいにしてから、「やっぱり断熱工事をしたい」
となると、再び壁や床を解体しなければならないこともあります。
だからこそ、
見た目を変える工事と、性能を向上させる工事は、できるだけ一緒に考える。
これもリノベーションの重要な勘所です。
リノベーションは、工事を始める前が大切
リノベーションというと、「どんなキッチンにするか」「床材は何にするか」「壁の色はどうするか」
といった、楽しい話から始まりがちです。
もちろん、それも家づくりの楽しみの一つです。
しかし、本当に重要なのは、その前にあります。
この家は安全なのか、どこが傷んでいるのか、これから何を直す必要があるのか。
そして、何を残すことができるのか。
前回の記事でも、「古い家だから建て替える」
と簡単に決めないことの大切さについて書きました。
リノベーションも同じです。
まずは家を知る。
その上で、残すものを決める、直すところを決める、性能を高めるところを決める
そして最後に、
暮らしをどう変えていくのかを考える。
この順番が大切です。
人間も住宅も、早期発見が大切
住宅の傷みは、放置すればするほど大きな工事になることがあります。
小さな雨漏りが、やがて柱や梁を傷める。
床下の湿気が、木材の腐朽につながる。
小さな水漏れが、気がついたときには大きな被害になっている。
だから、
「リノベーションすることが決まってから調べる」
のではなく、
「リノベーションできるのかを判断するために調べる」
という考え方が必要だと思います。
人間が健康診断を受けるように、家も定期的に状態を確認する。
そうすることで、大きな問題になる前に手を打つことができます。
家の価値は、表面だけでは分からない
古い家を見たとき、「きれいか、汚いか」、「新しいか、古いか」
だけで判断してしまうと、その家の本当の価値を見失うことがあります。
大切なのは、その家が、今どんな状態なのか。
そして、これからどこまで性能を高めることができるのか。
見た目には古くても、構造がしっかりしている家があります。
一方で、見た目は比較的新しくても、雨漏りや劣化が進んでいる家もあります。
だからこそ、リノベーションの第一歩は、デザインを考えることでも、設備を選ぶことでもありません。
まず、その家を知ること。
これが、これから何十年も住み続けるためのリノベーションの出発点になるのではないでしょうか。
リノベの勘所
「直したい場所」より先に、
「傷んでいる場所」を知る。
そして、
「古いから壊す」のではなく、
「今の状態を知ってから、これからを考える」。
リノベーションは、工事が始まってからではなく、
住まいの健康診断から始まります。
リノベの勘所 第2話
写真はイメージです
その家、本当に建て替えた方がいいですか?
「この家、もう古いので建て替えた方がいいですよね。」
住宅の相談を受けていると、そんな言葉を聞くことがあります。
確かに、長く住んできた家であれば、設備は古くなり、断熱性能も現在の住宅と比べれば十分ではないかもしれません。
壁や天井に傷みがあったり、間取りが今の暮らしに合わなくなっていたりすることもあります。
そうなると、「いっそのこと全部壊して、新しい家を建てた方がいい。」
そう考えるのも無理はありません。
でも、私はそこで一度立ち止まって考えます。
「本当に、この家は建て替えなければならないのだろうか?」
古い=建て替え、ではありません
築年数だけを見れば、確かに古い家です。
しかし、家の価値は築年数だけでは決まりません。
例えば、
・しっかりした柱や梁が残っている
・長い年月を経た木材に味わいがある
・庭と建物の関係が良い
・昔ながらの風通しの良い間取りになっている
・古い建具や左官壁が、その家らしい雰囲気をつくっている
そんな家もあります。
これらは、古いという理由だけで壊してしまうには、少しもったいないものです。
国土交通省も、既存住宅について
「いいものを作って、きちんと手入れして、長く使う」
方向への移行を重要な考え方として示しており、耐震・省エネなどの性能向上を含めた既存住宅の活用を進めています。
つまり、古い家だから価値がないのではありません。
「その家が今、どんな状態なのか」を調べてから判断することが大切なのです。
建て替えかリノベーションかは、
まず「家の健康状態」を見る
人間でも、年齢だけを聞いて健康状態を判断することはできません。
70歳だから体が悪いとは限らないし、40歳だから健康とも限りません。
住宅も同じです。
築年数だけでは、その家の状態は分かりません。
実際に建物を見て、
・基礎はどうなっているか
・柱や梁は傷んでいないか
・雨漏りはないか
・シロアリの被害はないか
・屋根や外壁の状態はどうか
・現在の耐震性はどうか
・断熱性能はどの程度なのか
などを確認する必要があります。
場合によっては、インスペクションや耐震診断などを利用することも有効です。
国土交通省も、既存住宅の流通やリフォームにおいて、インスペクション、住宅履歴、既存住宅の性能評価などを活用する仕組みを整備しています。
そして、もう一つ大切なこと
建物の状態を確認するだけでは、まだ答えは出ません。
もう一つ考えなければならないのが、
「この家で、これからどんな暮らしをしたいのか」
ということです。
例えば、
「家族が増えて部屋が足りない。」
「冬になると家の中が寒い。」
「台所が狭くて家事がしにくい。」
「親と一緒に暮らすことになった。」
「子どもが独立して、部屋が余っている。」
こうした問題があるなら、建て替えなくても解決できる可能性があります。
逆に、建物の状態や法的な条件、希望する暮らし方によっては、リノベーションより建て替えの方が合理的な場合もあります。
だから私は、
「リノベーションありき」でも「建て替えありき」でも考えません。
まず、その家と暮らしの両方を見るようにしています。
リノベーションは「古い家を新しくする」ことではない
ここで、前回の話にもつながります。
リノベーションというと、
「古いものを新しいものに交換すること」
と考えがちです。
古いキッチンを新しくする。
古い浴室を新しくする。
古い壁紙を張り替える。
古い床を新しくする。
もちろん、それもリノベーションです。
しかし、それだけなら、その家である必要はありません。
私はリノベーションをするとき、
「残すもの」と「変えるもの」を見つけること
から始めたいと考えています。
例えば、柱や梁は残す。
一方で、耐震性能は向上させる。
古い建具はできるだけ活かす。
一方で、断熱性能は現在の暮らしに合わせて改善する。
庭は残す。
その代わり、庭とのつながりが生まれるように窓や間取りを考え直す。
そんなふうに、
古いものを残すことと、新しい暮らしをつくることを両立させる。
そこにリノベーションの面白さがあります。
建て替えではなく、リノベーションだからできること
新築には、新築の良さがあります。
構造も設備もすべて新しくでき、現在の暮らしに合わせてゼロから計画できます。
一方、リノベーションには新築にはない魅力があります。
それは、
すでにそこにあるものを利用できること。
長い年月を経た柱。
手仕事の跡が残る壁。
古い建具。
庭。
周囲の風景。
その土地で積み重ねてきた時間。
こうしたものは、新築では新しくつくることができません。
だからこそ、私は古い家を見るとき、
「何が古いのか?」
だけではなく、
「何がこの家にしかないのか?」
を見るようにしています。
ただし、何でも残せばいいわけではありません
ここは誤解してほしくないところです。
「古い家を活かす」と言っても、すべてを昔のまま残す必要はありません。
安全性に問題があるなら、改善する。
断熱性能が不足しているなら、向上させる。
使いにくい設備は更新する。
暮らしに合わない間取りは見直す。
必要であれば、古い部分を取り除くこともあります。
大切なのは、
「残すこと」そのものを目的にしないこと。
その家にとって何を残す価値があるのか。
何を変えれば、これからの暮らしが良くなるのか。
その判断をすることです。
建て替えるかどうかは、
「古さ」ではなく「可能性」で考える
古い家を見て、
「もう古いからダメだ。」
と判断するのは簡単です。
でも、「この家には何が残っているだろう?」
「これを活かしたら、どんな暮らしができるだろう?」
と考えてみる。
すると、同じ家でも見え方が変わってきます。
もしかすると、建て替えなくてもいいかもしれません。
もしかすると、建て替えた方がいいかもしれません。
どちらが正解なのかは、家によって違います。
だからこそ、私は最初から答えを決め付けてしまわないことが大切だと思っています。
建て替えるか、リノベーションするか。
その答えを出す前に、
まずはその家をよく見る。
そして、その家でこれからどんな暮らしをしたいのかを考える。
そこから、本当のリノベーションが始まります。
リノベの勘所
「古いから建て替える」のではなく、
「残す価値があるから活かす」という選択肢もある。
建物の年齢ではなく、
その家の状態と、これからの暮らし。
その二つを見てから、建て替えるのか、リノベーションするのかを考えてみてはいかがでしょうか。
リノベの勘所 第1話「何を変えるか」より「何を残すか」
リノベーションを考えるとき、「何を新しくしようか」と考えるのは当然です。
例えば、キッチンを新しくする、床を貼り替える、間取りを変えるなどと考えるかもしれません。
勿論、それもそうなのですが
でも、その前に一度立ち止まって、「この家にしかないものは何だろう?」と考えてみてください。
長い年月を経た柱かもしれません
古い建具かもしれません
当時の職人さんが拘って造った設えかもしれません
それらは、新しい材料に交換すれば手に入るものではありません。
リノベーションとは、古いものを新しくすることだけではありません。
その家が持っている価値を見つけ、それを残しながら、これからの暮らしに合わせていくこと。
私は、そこにリノベーションの面白さがあると思っています。
リノベーション事例
この写真はリノベーションした部屋の事例です。
写真の奥に写る床の間の柱や鴨居と言うべきか?落とし掛けと言うべきか? 床板は元々この家で、この場所で使われていたものです。
今、このような床柱を使って床の間を設けようと思うと大工さんの手間もそこそこ、掛かります。
そして何といっても面白いのは枝の部分が中抜きになっている鴨居?
こんな材料、今では絶対に使わないと思うのですが、当時の施主の好みなのか、職人さんの遊び心なのか貴重な財産と思って、残しました。
その他の部分の壁が白いのは予算の関係で、拘り切れなかった部分です。
柱や敷居は当時のまま使っているため色つやが全然、異なりますが、この家の持っている価値が、このような部分にあると考えます。
リノベーションは「足し算」ではなく「編集作業」
新しい設備を足す
断熱材を足す
収納を足す
部屋を足す
もちろん必要なものはあります。
しかし、リノベーションの本質は、
何を足すかではなく、何を残し、何を取り除き、何をつなぎ直すか。
つまり、
「家をつくり直す」というより「家を編集する」こと
これが本当のリノベーションでは無いかと思っています。