リノベの勘所 第8話
↑ これは架空の見積書です。
これだけ「一式」項目の多い見積書、あなたなら信用できますか?
住宅のリノベーションを考え始めたとき、気になるのは、やはり費用ではないでしょうか。
「築40年の家をリノベーションすると、いくらくらいかかりますか?」
「30坪の家なら、坪単価はいくらですか?」
「建て替えるより、リノベーションの方が安いですよね?」
こうした疑問を持つのは、ごく自然なことです。
限られた予算の中で住まいを整えたい、できるだけ無駄な費用はかけたくない
その気持ちはよく分かります。
ただ、リノベーションの費用について考えるとき、最初に知っておいていただきたいことがあります。
リノベーションの費用は、家の広さだけでは決まりません。
同じ30坪の住宅でも、工事の内容によって費用は大きく変わります。
そして、その違いを生むのは、単に使う材料のグレードだけではありません。
建物の状態、どこまで改修するのか、何を残し、何を新しくするのか、どんな暮らしを実現したいのか。
そうした条件によって、必要な工事が変わるからです。
同じ30坪でも、工事内容はまったく違う
例えば、同じ30坪の木造住宅が2軒あるとします。
Aの家は、建物の状態が比較的良好で、間取りも大きく変える必要がありません。
キッチンや浴室などの設備を更新し、内装を整えることで、希望する暮らしを実現できそうです。
一方、Bの家は、雨漏りの跡があり、床下の木材にも傷みが見られます。
断熱性能も不足しており、間取りを変更するためには構造の検討も必要です。
どちらも30坪ですが、必要な工事は同じでしょうか。
当然、違います。
Aの家では設備や内装の改修が中心になるかもしれません。
Bの家では、傷んだ部分の補修、耐震改修、断熱改修なども検討する必要があります。
つまり、床面積が同じだからといって、工事費まで同じになるわけではありません。
坪単価は費用を考えるための一つの目安にはなっても、その家に必要な工事を教えてくれる数字ではないのです。
「一式幾ら」という文字に注意する
リノベーションの費用を調べていると、
「一式○○万円」、「坪単価○○万円から」といった表示を見かけることがあります。
予算の目安をつかむためには、こうした情報も参考になるでしょう。
ただし、その金額に何が含まれているのかは、必ず確認しておきたいところです。
例えば、次のような違いがあります。
キッチンや浴室などの設備は含まれているのか? 給排水管の更新は含まれているのか? 耐震補強や断熱改修は含まれているのか?
解体後に見つかった傷みへの対応はどうなるのか? 設計料や各種申請に関する費用は含まれているのか?
これらが違えば、見積金額も大きく変わります。
例えば、A社の見積もりが1,500万円、B社が1,300万円だったとします。
数字だけを見れば、B社の方が200万円安く見えます。
しかし、B社の見積もりに屋根の補修や外構工事が含まれていなければ、単純な比較はできません。
工事が始まってから別途費用が必要になれば、最終的な支払額が逆転する可能性もあります。
見積書の頭の金額だけでなく、その金額でどこまで工事をしてくれるのか。
そこを確認することが大切です。
安い見積もりが、結果的に高くつくこともある
ここで、少し考えてみたいことがあります。
リノベーションの見積もりが予算を超えてしまった。
そこで、金額の安い会社を選ぶ。一見すると、合理的な判断に思えるかもしれません。
もちろん、同じ工事内容、同じ品質、同じ条件で比較した結果、安いのであれば、それは有力な選択肢です。
問題は、同じ条件で比較できているかどうかです。
例えば、見積もりには含まれていない工事がある 、 必要な補修が十分に考慮されていない 、
設備や材料の仕様が異なる 、 解体後に問題が見つかった場合の扱いが明確でない
こうした違いがあれば、単純に金額だけを比較しても意味がありません。
また、必要な工事を省いたことで、後から追加工事が必要になることもあります。
もちろん、安い見積もりが必ずしも悪いわけではありません。
大切なのは、安いか高いかではなく、その金額で何が実現できるのかを理解することです。
古い家には、開けてみないと分からない部分がある
新築とリノベーションの大きな違いの一つは、既存の建物を相手にすることです。
床をめくってみる、壁を解体してみる、天井裏を確認する
そうして初めて、これまで見えなかった部分が分かることがあります。
例えば、床下の木材が傷んでいる 、 雨漏りによって柱や梁が劣化している 、 シロアリの被害がある 、
以前の工事で配管が変更されている 、 図面と実際の建物が違っている
こうした問題は、事前の調査で発見できる場合もありますが、解体して初めて確認できることもあります。
だからといって、何も分からないまま工事を始めてよいわけではありません。
事前に確認できるところは確認する 、 想定されるリスクを整理する
追加工事が必要になった場合の対応を、あらかじめ相談しておく
こうした準備が重要になります。
リノベーションでは、工事費だけでなく、予想外の事態にどう備えるかも予算計画の一部です。
すべてを新しくする必要はない
予算を考えるとき、もう一つ大切なのが、何を新しくして、何を残すのかという判断です。
例えば、古い柱や梁。状態が良く、構造上も問題がなければ、活かせる可能性があります。
一方で、劣化した部分や性能が不足している部分については、補修や改修が必要になることがあります。
つまり、古いものをすべて残せば安くなるわけでも、すべて新しくすれば安心というわけでもありません。
残すために補修費用が必要になることもあります。
逆に、既存の間取りや配管を活かすことで、解体や移設の費用を抑えられる場合もあります。
重要なのは、単純に新旧を分けることではありません。
残す価値があるものと、改修する必要があるものを見極めること。
その判断によって、費用の使い方も変わってきます。
これは、第1話でお伝えした「何を変えるか」より「何を残すか」という考え方にもつながります。
予算が限られているなら、優先順位を決める
リノベーションでは、やりたいことが次々に出てきます。
キッチンを新しくしたい、浴室を広くしたい、広いLDKにしたい
収納を増やしたい、断熱性能を高めたい、耐震性も改善したい
どれも大切な要望です。
しかし、すべてを希望どおりに実現するには、予算が足りないこともあります。
そんなとき、単純に工事費を一律に削っていくのは、あまり良い方法ではありません。
まずは、何を優先すべきかを整理する必要があります。
例えば、
優先度が高いもの
構造上の問題や雨漏りなど、建物の健全性に関わる工事
必要な耐震改修や、深刻な劣化への対応
これからの暮らしに不可欠な設備の更新
暮らしの質を高めるもの
断熱性能の改善
家事動線や間取りの改善
収納や使い勝手の向上
条件によって検討できるもの
仕上げ材のグレード変更
一部の造作家具
外構や庭の整備の一部
これはあくまで一例であり、すべての住宅に同じ順番が当てはまるわけではありません。
例えば、寒さが深刻な住宅では断熱改修の優先度が高くなりますし、屋根や外壁に問題があれば、そちらを先に考える必要があります。
大切なのは、単純に安いものから削るのではなく、建物の状態と、これからの暮らしに照らして優先順位をつけることです。
予算をかけるべきところ、かけなくてもよいところ
建築の設計では、すべての場所に同じようにお金をかける必要はありません。
例えば、毎日使うキッチンの作業環境を改善することに、しっかり予算をかける。
冬の寒さが厳しい家なら、窓や断熱の改善を優先する。
耐震性に問題があるなら、必要な補強に予算を配分する。
一方で、見た目だけの変更であれば、既存のものを活かす方法も考えられます。
すべてを高価な材料にする必要はありません、すべてを造作にする必要もありません。
既製品を上手に使いながら、必要なところに手間と費用をかける方法もあります。
お金をかけること自体が目的ではありません。かけた費用が、暮らしのどこを良くするのかが重要です。
「総額」だけでなく、工事の中身を考える
リノベーションを計画するとき、予算の総額を決めることは大切です。
ただし、総額だけを決めても、具体的な計画には進めません。
その予算で、どこまで工事をするのか、どこは必ず改修するのか、何を残すのか。
こうしたことを整理する必要があります。
また、工事費だけでなく、設計・監理料、調査費、各種申請費用、仮住まいや引っ越しにかかる費用なども、計画に応じて考えておきたいところです。
補助金を利用できる場合もありますが、制度の対象となる工事や条件、申請時期などの確認が必要です。
補助金が使えることを前提にするのではなく、まず必要な工事と予算を整理し、その上で利用できる制度を検討する方が堅実です。
そして、予算を決める際には、建物の状態や工事内容に応じて、予備費も考慮しておくと安心です。
最初に金額を決めるより、まず家を知る
「リノベーションには、いくら必要ですか?」
この質問に、建物を見ずに正確な金額を答えることはできません。
もちろん、一般的な相場や概算の目安をお伝えすることはできます。
しかし、その数字だけで工事の判断をすることは出来ません。
同じ築年数でも、建物の状態は違います、同じ床面積でも、必要な工事は違います。
同じ予算でも、どこにお金をかけるかによって、又考える人によっても、完成する住まいは変わります。
だからこそ、まずは建物の状態を確認する。
その上で、どんな暮らしを実現したいのかを整理する。
そして、必要な工事と予算を照らし合わせていく。
この順番が大切だと考えています。
予算に合わせて、できることを考える、ただし、必要な工事まで安易に省かない。
残せるものは活かし、必要なところにはきちんと費用をかける。
それが、限られた予算の中で良いリノベーションを実現するための基本です。
リノベーションは、安くすることが目的ではない
もちろん、工事費は安いに越したことはないかもしれません。
しかし、安くすることだけを追いかけると、本来必要だった工事を見落としたり、
完成後の暮らしに不満が残ったりすることがあります。
反対に、費用をかければ必ず良い住まいになるわけでもありません。
必要以上に高価な設備を選ぶ、使いこなせないほどの設備を導入する、
見た目のためだけに大規模な工事をする
それが本当に必要なのか、考えてみる価値はあります。
大切なのは、安さでも豪華さでもありません。
その家に必要な工事を見極め、限られた予算を、これからの暮らしのために使うこと。
私は、それがリノベーションにおける設計の役割だと考えています。
リノベの勘所
リノベーションの予算は、坪単価だけでは分からない。
同じ広さの家でも、建物の状態や工事範囲によって費用は変わります。
見積書の総額だけでなく、何が含まれていて、何が含まれていないのかを確認する。
そして、建物の状態を把握した上で、必要な工事に優先順位をつける。
残せるものは活かす、直すべきところは、きちんと直す。
お金をかけるべきところと、かけなくてもよいところを見極める。
良いリノベーションとは、たくさんお金をかけた住宅ではありません。
使える予算を、暮らしにとって大切なところへ適切に配分した住宅です。
まずは坪単価を調べる前に、その家の状態を知ることから始めてみませんか。
リノベの勘所 第7話
洗面脱衣所のリノベーション事例
水回りの移動は、意外と難しい
リノベーションを考えるとき、間取りと並んでよく話題になるのが、水回りの位置です。
キッチンを対面式にしたい。洗面所を広くしたい。浴室をもう少しゆったりさせたい。
洗濯機を脱衣室に置いて、洗濯の動線を短くしたい。トイレの位置を変えたい。
どれも、日々の暮らしを考えれば自然な要望です。
特に古い住宅では、水回りの配置が今の生活に合っていないことも少なくありません。
だからこそ、リノベーションを機に使いやすい位置へ移動したくなるのでしょう。
ただ、ここで一つ知っておいていただきたいことがあります。
水回りは、家具のように簡単に移動できるものではありません。
キッチンや浴室を移動するには、設備だけでなく、配管や建物の構造まで考える必要があります。
そして、その移動が本当に暮らしやすさにつながるのかも、考えておきたいところです。
キッチンを移動するだけ、では済まない
例えば、壁付けのキッチンを対面式に変更したいとします。
キッチン本体を新しくして、向きを変える。
図面上では、それほど難しいことには見えないかもしれません。
しかし、実際にはいくつもの検討事項があります。
まず、給水と給湯の配管。そして、排水管。
さらに、換気設備や排気ダクト、電気配線なども関係します。
特に注意したいのが、排水です。
排水は、基本的に勾配を確保して流す必要があります。
キッチンを移動した結果、排水管が長くなったり、床下の高さが足りなかったりすると、計画どおりに配管できない場合があります。
床下に十分な空間があるのか? 排水管をどの経路で通すのか? 必要な勾配を確保できるのか?
こうした条件を確認しなければなりません。
つまり、キッチンの位置を決めることと、キッチンを実際に移動できることは、別の話なのです。
床下を見て初めて分かることがある
新築であれば、設備の位置を決めた上で、配管経路などの計画をできます。
一方、既存住宅では、すでに建物ができあがっています。
床下の高さ、基礎の位置、土台や大引などの構造材、既存の給排水管。
これらの条件によって、できることが変わります。
図面上では問題がなさそうでも、実際に床下を確認すると、想定していた経路に配管を通せないことがあります。
反対に、現地を確認した結果、思っていたより自由度が高いと分かる場合もあります。
だからこそ、リノベーションでは図面だけで判断しないことが大切です。
見えない部分を確認せずに、できるとも、できないとも、簡単には言えません。
水回りの移動で工事費が変わる理由
水回りを移動すると、設備本体の費用以外にも工事が発生します。
例えば、
給水・給湯・排水管の移設、床や壁の解体と復旧、電気配線の変更
換気設備や排気ダクトの変更、必要に応じた床下地や構造部分の調整
既存設備の撤去と処分などです。
もちろん、建物の状態や移動距離、設備の種類によって工事内容は異なります。
同じキッチンの交換でも、既存の位置で交換する場合と、別の場所へ移動する場合とでは、
必要な工事が大きく変わることがあります。
だから、設備のカタログに掲載されている価格だけでは、工事全体の費用は分かりません。
設備をいくらで買うかだけでなく、それを使える状態にするために何が必要なのか?
そこまで考える必要があります。
水回りを移動すれば、暮らしやすくなるのか?
ここで、もう一つ考えたいことがあります。
それは、「水回りを移動すること自体が、本当に目的なのか?」ということです。
例えば、キッチンが使いにくいと感じている場合。
原因は、本当にキッチンの位置でしょうか?
調理台が狭いのかもしれません、収納が足りないのかもしれません、
冷蔵庫の位置が悪いのかもしれません、食器棚との距離が長いのかもしれません、
家族がキッチンの周りを頻繁に通るため、落ち着いて作業できないのかもしれません
こうした問題であれば、キッチンを移動しなくても解決できる可能性があります。
設備の位置を変える前に、まずは何が不便なのかを整理する。
その上で、配置を変える必要があるのかを判断する。
これが大切です。
不便の原因を解決することと、設備の位置を変えることは、必ずしも同じではありません。
洗濯の動線は、距離だけで決めない
例えば、洗濯機を浴室の近くに置き、洗濯物を干す場所までの動線を短くしたいとします。
これは、日々の家事負担を軽くする上で、合理的な考え方です。
ただし、距離を短くすることだけに注目すると、別の問題が見えてこないことがあります。
洗濯物をどこに干すのか? 雨の日はどうするのか? 乾いた洗濯物をどこに収納するのか?
家族の衣類は、どこで着替えるのか? タオルや洗剤は、どこに収納するのか?
これらを一緒に考えると、単に洗濯機の位置を変えるだけでは、十分でないことが分かります。
例えば、洗う、干す、取り込む、たたむ、収納するという一連の動作を整理すれば、
必ずしも水回りを大きく移動しなくても、家事が楽になる場合があります。
間取りを考えるときは、設備の位置だけでなく、人の動きまで考える。
これは、キッチンや浴室、洗面所にも共通する考え方です。
古い住宅では、設備だけを新しくしても解決しない
古い住宅のリノベーションでは、水回りの老朽化も大きな問題です。
給排水管が古くなっている、床下で漏水している、
浴室の周囲に傷みがある、湿気によって木材が劣化している、
こうした問題が隠れている場合もあります。
新しいキッチンや浴室を設置すれば、見た目はきれいになります。
しかし、見えない部分に問題が残っていれば、せっかくのリノベーションが十分なものにならない可能性があります。
だから、水回りを改修するときには、設備の交換だけでなく、周囲の床や壁、床下の状態、配管の状況も確認したいところです。
場合によっては、設備の位置を変えることよりも、既存部分の補修や配管の更新を優先した方がよいこともあります。
新しい設備を入れることと、建物を健全な状態にすること。その両方を考える必要があります。
あえて移動しない、という選択
ここまで読むと、水回りの移動には難しいことが多いと感じられるかもしれません。
もちろん、移動した方が暮らしやすくなる場合はあります。
対面式キッチンにすることで、料理をしながら家族と会話ができる。
洗面所を広げることで、朝の支度がしやすくなる。
洗濯動線を整理することで、毎日の家事が楽になる。
こうした変化には、十分な価値があります。
ただ、すべての水回りを移動する必要はありません。
既存の位置を活かせば、配管工事を抑えられる場合があります。
床や壁の解体範囲を小さくできることもあります。
その分の予算を、断熱改修や耐震補強、収納の改善などに回せる可能性もあります。
もちろん、既存の位置に問題があるなら、移動を検討すべきです。
大切なのは、移動することを前提にするのではなく、移動する価値があるかどうかを考えることです。
変えることが目的ではありません。変えることで、暮らしがどう良くなるのかが大切なのです。
リノベーションは、予算の使い方を考える仕事でもある
住宅の改修では、やりたいことが次々に出てきます。
キッチンを新しくしたい、浴室を広くしたい、洗面所を使いやすくしたい、
間取りも変えたい、断熱性能も高めたい、耐震性も改善したい
しかし、予算には限りがあります。
だからこそ、それぞれの工事にどのような効果があるのかを考え、優先順位をつける必要があります。
例えば、水回りの移動に大きな費用がかかるのであれば、その費用をかけて得られる暮らしの変化と、
ほかの工事に予算を使った場合の効果を比較してみる。
その結果、移動する方がよいと判断することもあれば、既存の位置を活かす方が合理的だと判断することもあります。
どちらが正しいかは、建物の状態や住む人の希望によって異なります。
だから私は、単に要望をそのまま形にするだけではなく、
限られた予算をどこに使えば、これからの暮らしが最も良くなるのかを一緒に考えたいと思っています。
水回りの位置を決める前に、暮らしを見直す
キッチンを移動する、浴室を移動する、洗面所を広げる、トイレの位置を変える
こうした計画を考えるとき、最初に確認したいのは、設備の種類や配置だけではありません。
今、何に困っているのか? どんな家事を楽にしたいのか? 家族はどのように動いているのか?
これから、どんな暮らしをしたいのか? そして、建物には何ができて、何が難しいのか?
これらを整理してから、具体的な配置を考えていきます。
場合によっては、希望していた場所に移動することが難しいかもしれません。
別の位置の方が、使いやすくなるかもしれません。
あるいは、移動しない方が合理的かもしれません。
大切なのは、最初に思い描いた方法に固執しないことです。
要望をそのまま実現することだけが、良い設計ではありません。
要望の奥にある目的を理解し、より良い方法を探すことも設計の役割です。
リノベの勘所
水回りの移動は、設備の位置を変えるだけではない。
配管を考える、建物の構造を確認する、工事費を整理する
そして、毎日の暮らしを見直す
その上で、移動するのか、既存の位置を活かすのかを判断する。
新しい設備を入れることだけを考えるのではなく、家全体を見渡して、何を変えるべきかを考える。
それが、リノベーションの設計です。
「どこに移動できますか?」と考える前に、「なぜ、そこに移動したいのですか?」と考えてみる。
その答えの中に、より良い住まいをつくるヒントがあるのだと思います。
リノベの勘所 第6話
リノベーションにあたり、解体した現場の様子
間取り変更は「壁を壊す」ことではない
リノベーションの相談を受けていると、よくこんな話があります。
「この壁を取って、LDKを広くしたいんですが・・・」、「和室とリビングをつなげたい」、「キッチンをこちらに移動したい」
どれも、リノベーションではよくある要望です。
そして、それを聞くと、「では、この壁を壊しましょう」と考えてしまいそうになります。
でも、私は少し違うところから考えます。
「その壁を壊したら、どんな暮らしになるのか?」です。
間取り変更は、壁を壊すことが目的ではありません。
その先にある、「どんな暮らしをしたいのか」を実現するための手段です。
「壁をなくせば広くなる」は、本当でしょうか?
例えば、6畳の部屋と8畳の部屋の間にある壁を取り払えば、単純に考えれば14畳の一つの空間になります。
確かに、物理的には広くなります。
でも、「広くなった=暮らしやすくなった」とは限りません。
家具をどこに置くのか? テレビを見る場所はどこなのか? 食事をする場所はどこなのか? 子どもはどこで遊ぶのか?
洗濯物はどこに干すのか? 冬に陽射しが入りやすいのはどこか?
そして、家族それぞれが一人になりたいとき、どこに行くのか?
こうしたことまで考えて初めて、間取りの変更に意味が出てきます。
ただ壁をなくして大きな部屋をつくるだけなら、設計というより「解体」に近いかもしれません。
その壁、本当に取っていい壁ですか?
もう一つ、リノベーションで忘れてはいけないことがあります。
それが構造です、前回、耐震補強について書きました。
既存住宅の場合、壁には単なる「間仕切り」として存在しているものだけではなく、建物を支えている重要な壁が含まれていることがあります。
筋交いが入っている、耐力面材が使われている、柱や梁と一体となって建物を支えている。
あるいは、その壁をなくすことで、別の場所に負担が集中する。
見た目だけでは、それが分からないこともあります。
だから、「この壁をなくしたい」という要望が出てきたとき、
「取れるか、取れないか」だけで判断するのではなく、
「取った場合、建物はどうなるのか?」を確認する必要があります。
これはリノベーションの基本です。
古い家ほど「間取り図」だけでは分からない
新築住宅の場合、設計段階から構造を含めて計画します。
一方、既存住宅では、実際の建物を見てみると図面と違っていることがあります。
増築されていたり、以前にリフォームされていたり、図面が残っていない、
柱や梁の位置が想定と違う、壁の中に筋交いが入っている、
床下や天井裏を確認して初めて分かることもあります。
つまり、
既存住宅のリノベーションは、図面だけを見て設計するものではありません。
実際の建物を見て、壊して、確認して、また考える。
そうした作業が必要になります。
だからこそ、リノベーションでは「現場を見ること」が非常に重要なのです。
「残す」という選択肢もある
ここで、第1話の内容を振り返ってみます。
リノベーションでは、「何を変えるか」だけではなく「何を残すか」も考える必要があります。
例えば、昔ながらの建具、土壁、庭とのつながり、当時の職人が凝らした趣向など
これらは、すべて取り払って新しくすれば良いというものではありません。
むしろ、新築では簡単につくれないものもあります。
だから、「古いから新しくする」ではなく、「この家にしかないものは何だろう?」と考えてみる。
その上で、残すものと変えるものを決めていきます。
「開ける」だけでなく「閉じる」ことも考える
最近は、開放的な間取りが好まれる傾向があります。
広いLDK、大きな窓、間仕切りの少ない空間、もちろん、それは魅力的です。
でも、家の中には「閉じておきたい場所」もあります。
集中して仕事をしたり、子どもが勉強したり、少し一人になりたい、
来客時には生活感を隠したい、寝室は落ち着いた空間にしたい
つまり、良い間取りとは、全部を開放することではありません。
「開くところ」と「閉じるところ」、「つなげるところ」と「分けるところ」。
そのバランスを考えることが重要です。
古い家だからこそできる間取りもある
既存住宅のリノベーションには、新築とは違う面白さがあります。
その条件を読みながら、新しい暮らしを組み立てていきます。
すべてを一度壊してしまえば、自由になるように思えます。
しかし、実はそうとも限りません。
既存の条件があるからこそ、「ここを残して、ここを変える」
という設計が生まれます。制約があるからこそ、できることもあります。
そして、予算も忘れてはいけない
間取りを大きく変えるほど、工事も大きくなる傾向があります。
壁を壊したり、柱を移動したり、梁を補強したり、電気配線をやり直したり
場合によっては、給排水設備も移動する。
一つの壁をなくすだけのつもりが、思った以上に工事範囲が広がることがあります。
だからこそ、「この間取りにしたい」だけではなく、
「この暮らしのために、どこまで工事をする価値があるのか」
を考えることが大切です。
リノベーションでは、限られた予算の中で、すべてを理想通りにすることが難しい場合もあります。
だからこそ、何にお金をかけるのか。
何を残すのか、何を諦めるのか、そこにも設計の力が必要になります。
「新築のような間取り」にする必要はない
リノベーションの完成写真を見ると「これが古い家だったの?」と思うような事例もあります。
それは、とても魅力的に見えます。
でも、私は必ずしも「新築のようにすること=良いリノベーション」だとは思いません。
古い家には、古い家の良さがあります。
建具や土壁、そこに積み重なった時間。
それらを全部消してしまうのではなく、
「古い家の良さを残しながら、今の暮らしに合わせる」
という方法もあります。
それこそが、リノベーションならではの設計だと思っています。
間取りを変える前に、暮らしを考える
リノベーションの相談で「この壁を取れますか?」と聞かれたら、
私はその質問だけでは答えを出したくありません。
その壁を取って、何をしたいのか?、どんな時間を過ごしたいのか?、誰と暮らすのか?
これから家族はどう変化していくのか?
そこまで考えて「では、この壁はどうしましょう?」と考えたいのです。
場合によっては、壁を取らない方が良いかもしれませんし、もしかしたら壁を少し残した方が良いかもしれません。
別の場所に開口部をつくった方が良いかもしれません、或いは、全く違う間取りにした方が良いかもしれません。
正解は、家によって違います。
リノベーションは「解体」から始まらない
リノベーションというと、「古いものを壊して、新しいものをつくる」というイメージがあるかもしれません。
でも、本当に最初にやるべきことは、壊すことではありません。
見ること、そして、考えること
この家には何があるのか。
何が問題なのか? 何を残せるのか? 何を変える必要があるのか?
その上で「これから、ここでどんな暮らしをするのか」を考える。
それから、初めて壁を壊すかどうかを決めればいい。
リノベの勘所
間取り変更は「壁を壊す」ことではない、暮らしを変えるために、壁をどう扱うかを考えること。
広いLDKをつくることが目的ではありません、部屋を減らすことが目的でもありません、
古い家を新築のようにすることが目的でもありません
その家が持っているものを読み取り、残すものと変えるものを見極め、構造と暮らしを一緒に考える。
その結果として、新しい間取りが生まれます。
「この壁、取れますか?」その質問の前に、
「なぜ、この壁を取りたいのですか?」
と聞いてみる。
そこから、本当のリノベーションが始まるのだと思います。
リノベの勘所 第5話
耐震補強中の現場の様子
耐震補強は、どこまでやればいい?
古い家をリノベーションするとき、避けて通れない問題があります。
それが、「この家は、地震に対して大丈夫なのか?」ということです。
特に大きな地震を経験した地域では、このことを気にされる方も多いでしょう。
「せっかくリノベーションするなら、耐震補強もした方がいいですよね。」
これは、とても大切な考え方です。
ただ、ここで一つ難しい問題があります。
それは、「では、どこまで耐震補強すればいいのか?」ということです。
耐震補強は、やればやるほど良い、そう思われるかもしれません。
もちろん、安全性を高めることは重要です。
しかし、既存住宅のリノベーションでは、単純に「強くすればいい」という話ではありません。
建物の状態、間取り、予算、これから何年住むのか、そして、その家でどんな暮らしをしたいのか
それらを含めて考える必要があります。
「古い家だから危ない」とは限らない
前回の「家の健康診断」でも書きましたが、住宅は築年数だけで判断できません。
古い家だから危険、新しい家だから安心
そんな単純な話ではありません。
もちろん、建築された年代によって耐震基準が異なります。
特に1981年の建築基準法改正は、既存住宅の耐震性を考える上で一つの大きな目安になります。
ただし、同じ年代に建てられた住宅でも、建物の形状や施工状態、劣化状況によって状態は違います。
さらに、増築されている、間取りが変更されている、大きな開口部がある、屋根が重い、シロアリ被害がある
、柱や梁が劣化している、など、さまざまな条件によって耐震性は変わります。
だから、「築○年だから耐震補強が必要」
だけでは、本当の判断にはなりません。
まずは、その家の状態を知ること、そこから始まります。
耐震診断は「家の弱点」を知るためのもの
耐震診断というと、「この家は地震に強いのか、弱いのかを判定するもの」と思われがちです。
もちろん、それも重要な役割です。
しかし私は、それだけではないと思っています。
耐震診断をすることで、「この家のどこが弱いのか」を知ることができます。
例えば、この方向の壁が少ない、2階に比べて1階の壁配置が偏っている、大きな開口部がある、基礎に問題がある、など
建物の弱点が見えてくれば、どこを補強すれば効果的なのかを考えることができます。
つまり、闇雲に壁を増やすための診断ではなく、効率よく安全性を高めるための診断。
そう考えると、耐震診断の意味も分かりやすくなります。
耐震補強=壁を増やすこと、ではない
耐震補強と聞くと、「部屋の中に筋交いや壁をたくさん入れる」
というイメージを持つ方もいるかもしれません。
確かに、耐力壁を増やすことは重要な方法の一つです。
しかし、それだけではありません。
屋根を軽くする、壁の配置を見直す、接合部を補強する、基礎を補強する、劣化した部材を交換する、
床や屋根の剛性を確保する、建物全体として力が伝わるようにする、
このように、耐震改修にはさまざまに見直す部位が存在します。
そして重要なのは、「どこに、どのような補強を入れるか」です。
壁を増やせばいいからといって、家のあちこちに壁を追加すればいいわけではありません。
それは、むしろ暮らしに必要な場所を犠牲にしてしまう可能性もあります。
耐震性と暮らしやすさを両立させる
例えば、「この部屋を広いLDKにしたい」というリノベーションの要望があったとします。
ところが、その場所に耐震上重要な壁がある。
そこで、「耐震のために壁を残してください」と言うだけでは、設計者としては少し寂しい話です。
逆に、「壁を全部なくして大空間にしましょう」というのも安全性の裏付けが無く危険です。
そこで、「どうすれば、安全性を確保しながら、この暮らしを実現できるか?」を考えます。
例えば、別の位置に耐力壁を配置する、構造的な計画を見直す、
場合によっては、間取りそのものを少し変えるなど
耐震と間取りを別々に考えるのではなく、構造と暮らしを同時に設計する。
これがリノベーションの難しさであり、面白さでもあります。
どこまで耐震補強するかは、予算とも関係する
そして、現実的には予算の問題もあります。
耐震補強には費用がかかります。
さらに、断熱改修もしたい、水回りも新しくしたい、屋根も直したい、間取りも変えたい
当然、すべてを同時に行えば工事費は大きくなります。
だからこそ、「何を優先するのか」を決める必要があります。
私は、ここで大切なのは、「予算がないから耐震はやめる」という二択にしないことだと思っています。
建物の状態を確認した上で、「ここは必ずやる」、「ここはできればやる」、「ここは今回は見送る」
という優先順位をつける。
そして、将来的な改修の可能性も含めて計画する。
これも設計の仕事です。
断熱と耐震は、一緒に考える
前回、断熱について書きました。実は、耐震と断熱はリノベーションの中で非常に相性の良い工事です。
例えば、壁を解体するのであれば、そのタイミングで、
耐力壁をつくる、断熱材を入れる、気密について検討する、ということができます。
床を解体するのであれば、床下の状態を確認する、必要な補修をする、断熱する、床の剛性を確認する
ということもできます。
つまり、一つの工事をするために解体するなら、その機会を無駄にしない。
これがリノベーションでは非常に重要です。
「地震に強い家」だけをつくればいいのか?
ここで、少し立ち止まって考えてみます。住宅は、地震のためだけに存在しているわけではありません、毎日暮らす場所です。
朝起きる、ご飯を食べる、仕事をする、子どもが遊ぶ、家族で話す、庭を見る、眠る
そうした毎日の生活があります。
だから私は、耐震性だけを追い求めて、暮らしが窮屈になるようなリノベーションにはしたくありません。
もちろん、安全性は非常に重要です。
しかし、安全性、断熱性、使いやすさ、居心地、素材、コスト、そして、家族のこれから
それらを一緒に考えていく必要があります。
大切なのは「どこまでやるか」を決めること
耐震補強には、絶対的な一つの答えがあるわけではありません。
その家の状態によって違います、住む人によっても違います、予算によっても違います、これから何年住むかによっても違います
だからこそ、「どこまでやればいいですか?」という質問に対して、
「ここまでです」と簡単に答えることはできません。
まず建物を調べる、弱点を把握する、これからの暮らしを考える、その上で、必要な補強を考える
私は、それがリノベーションにおける耐震改修の基本だと考えています。
古い家を「弱い家」のまま終わらせない
古い住宅には、確かに耐震上の弱点がある場合があります。
だからといって、「古いから壊す」という結論だけが答えではありません。
そこにある柱や梁を活かしながら、必要なところを補強する、断熱性能を高める、設備を更新する、
暮らしに合わせて間取りを整える。
そうやって、「これまでの家」を「これからの家」に変えていく。
それがリノベーションの大きな役割だと思います。
家を残すということは、ただ古い建物を保存することではありません。
安全に、快適に、これからも使える状態にして、次の時間につないでいくこと。
そのために、耐震改修があります。
リノベの勘所
耐震補強は「どこまで壁を増やすか」ではない。
「この家を、これからどう使い続けるか」から考える。
耐震診断で家の弱点を知る、必要な場所を補強する
そして、断熱や間取り、設備の改修とも一緒に考える。
「耐震性」という一つの数字だけを追いかけるのではなく、
安全と暮らしやすさの両方をどう実現するか。
そこに、リノベーションの魅力があります。
リノベの勘所 第2話
写真はイメージです
その家、本当に建て替えた方がいいですか?
「この家、もう古いので建て替えた方がいいですよね。」
住宅の相談を受けていると、そんな言葉を聞くことがあります。
確かに、長く住んできた家であれば、設備は古くなり、断熱性能も現在の住宅と比べれば十分ではないかもしれません。
壁や天井に傷みがあったり、間取りが今の暮らしに合わなくなっていたりすることもあります。
そうなると、「いっそのこと全部壊して、新しい家を建てた方がいい。」
そう考えるのも無理はありません。
でも、私はそこで一度立ち止まって考えます。
「本当に、この家は建て替えなければならないのだろうか?」
古い=建て替え、ではありません
築年数だけを見れば、確かに古い家です。
しかし、家の価値は築年数だけでは決まりません。
例えば、
・しっかりした柱や梁が残っている
・長い年月を経た木材に味わいがある
・庭と建物の関係が良い
・昔ながらの風通しの良い間取りになっている
・古い建具や左官壁が、その家らしい雰囲気をつくっている
そんな家もあります。
これらは、古いという理由だけで壊してしまうには、少しもったいないものです。
国土交通省も、既存住宅について
「いいものを作って、きちんと手入れして、長く使う」
方向への移行を重要な考え方として示しており、耐震・省エネなどの性能向上を含めた既存住宅の活用を進めています。
つまり、古い家だから価値がないのではありません。
「その家が今、どんな状態なのか」を調べてから判断することが大切なのです。
建て替えかリノベーションかは、
まず「家の健康状態」を見る
人間でも、年齢だけを聞いて健康状態を判断することはできません。
70歳だから体が悪いとは限らないし、40歳だから健康とも限りません。
住宅も同じです。
築年数だけでは、その家の状態は分かりません。
実際に建物を見て、
・基礎はどうなっているか
・柱や梁は傷んでいないか
・雨漏りはないか
・シロアリの被害はないか
・屋根や外壁の状態はどうか
・現在の耐震性はどうか
・断熱性能はどの程度なのか
などを確認する必要があります。
場合によっては、インスペクションや耐震診断などを利用することも有効です。
国土交通省も、既存住宅の流通やリフォームにおいて、インスペクション、住宅履歴、既存住宅の性能評価などを活用する仕組みを整備しています。
そして、もう一つ大切なこと
建物の状態を確認するだけでは、まだ答えは出ません。
もう一つ考えなければならないのが、
「この家で、これからどんな暮らしをしたいのか」
ということです。
例えば、
「家族が増えて部屋が足りない。」
「冬になると家の中が寒い。」
「台所が狭くて家事がしにくい。」
「親と一緒に暮らすことになった。」
「子どもが独立して、部屋が余っている。」
こうした問題があるなら、建て替えなくても解決できる可能性があります。
逆に、建物の状態や法的な条件、希望する暮らし方によっては、リノベーションより建て替えの方が合理的な場合もあります。
だから私は、
「リノベーションありき」でも「建て替えありき」でも考えません。
まず、その家と暮らしの両方を見るようにしています。
リノベーションは「古い家を新しくする」ことではない
ここで、前回の話にもつながります。
リノベーションというと、
「古いものを新しいものに交換すること」
と考えがちです。
古いキッチンを新しくする。
古い浴室を新しくする。
古い壁紙を張り替える。
古い床を新しくする。
もちろん、それもリノベーションです。
しかし、それだけなら、その家である必要はありません。
私はリノベーションをするとき、
「残すもの」と「変えるもの」を見つけること
から始めたいと考えています。
例えば、柱や梁は残す。
一方で、耐震性能は向上させる。
古い建具はできるだけ活かす。
一方で、断熱性能は現在の暮らしに合わせて改善する。
庭は残す。
その代わり、庭とのつながりが生まれるように窓や間取りを考え直す。
そんなふうに、
古いものを残すことと、新しい暮らしをつくることを両立させる。
そこにリノベーションの面白さがあります。
建て替えではなく、リノベーションだからできること
新築には、新築の良さがあります。
構造も設備もすべて新しくでき、現在の暮らしに合わせてゼロから計画できます。
一方、リノベーションには新築にはない魅力があります。
それは、
すでにそこにあるものを利用できること。
長い年月を経た柱。
手仕事の跡が残る壁。
古い建具。
庭。
周囲の風景。
その土地で積み重ねてきた時間。
こうしたものは、新築では新しくつくることができません。
だからこそ、私は古い家を見るとき、
「何が古いのか?」
だけではなく、
「何がこの家にしかないのか?」
を見るようにしています。
ただし、何でも残せばいいわけではありません
ここは誤解してほしくないところです。
「古い家を活かす」と言っても、すべてを昔のまま残す必要はありません。
安全性に問題があるなら、改善する。
断熱性能が不足しているなら、向上させる。
使いにくい設備は更新する。
暮らしに合わない間取りは見直す。
必要であれば、古い部分を取り除くこともあります。
大切なのは、
「残すこと」そのものを目的にしないこと。
その家にとって何を残す価値があるのか。
何を変えれば、これからの暮らしが良くなるのか。
その判断をすることです。
建て替えるかどうかは、
「古さ」ではなく「可能性」で考える
古い家を見て、
「もう古いからダメだ。」
と判断するのは簡単です。
でも、「この家には何が残っているだろう?」
「これを活かしたら、どんな暮らしができるだろう?」
と考えてみる。
すると、同じ家でも見え方が変わってきます。
もしかすると、建て替えなくてもいいかもしれません。
もしかすると、建て替えた方がいいかもしれません。
どちらが正解なのかは、家によって違います。
だからこそ、私は最初から答えを決め付けてしまわないことが大切だと思っています。
建て替えるか、リノベーションするか。
その答えを出す前に、
まずはその家をよく見る。
そして、その家でこれからどんな暮らしをしたいのかを考える。
そこから、本当のリノベーションが始まります。
リノベの勘所
「古いから建て替える」のではなく、
「残す価値があるから活かす」という選択肢もある。
建物の年齢ではなく、
その家の状態と、これからの暮らし。
その二つを見てから、建て替えるのか、リノベーションするのかを考えてみてはいかがでしょうか。
一度きりの真剣勝負。高校野球に学ぶ、後悔しない家づくり
写真はイメージです。
夏の甲子園も、いよいよ明日の決勝戦を残すのみとなりました。
私も約40年ほど前は白球を追っていた高校球児でしたのでこの時期、自然と甲子園の試合には目を奪われます。
本日行われた準決勝、智弁和歌山対横浜の一戦は、7対1で智弁和歌山が勝利。優勝候補の一角と目されていた横浜高校は、28年ぶりの決勝進出を目前にして姿を消しました。
先発した横浜のエース・織田投手は、最速157キロを誇り「令和の怪物」とも称される超高校級の右腕です。
前日までの試合でも圧倒的な投球を見せてきましたが、中1日での連投という厳しい条件のもと、無念のマウンド降板となりました。
どれだけ実力があっても、たった一試合、数球の巡り合わせやコンディションなどで結果が大きく変わってしまう。
そして負ければ、それで終わり。これが高校野球の厳しさです。
実は、この「一発勝負」という構造、家づくりにもよく似ています。
家づくりも、やり直しのきかない一発勝負
多くの方にとって、家づくりは人生で一度きりの大きな決断です。
何千万円という費用をかけ、何十年と暮らしていく場所を決める。
しかも、一度建ててしまえば、あるいはリフォームしてしまえば、簡単にはやり直しがききません。
「もう一度試合をやり直したい」と思っても叶わない高校野球の選手たちと同じように、家づくりに携わる私たちも、「一度きりの真剣勝負」という緊張感を常に持って向き合っています。だからこそ、事前の準備や、信頼できるパートナー選びが何よりも重要になってくるのです。
エース一人に頼らない。
チームとしての総合力が結果を分ける
今日の試合を振り返って印象的だったのは、横浜が織田投手というエースの好投に多くを託さざるを得なかった一方で、智弁和歌山は打線全体、投手陣全体の総合力で勝利をもぎ取ったという構図です。どれほど傑出した個人がいても、その一人が不調に陥った瞬間にチーム全体が揺らいでしまう。
逆に、様々な選手が持ち味を発揮できるチームは、一人の調子が悪い日でも他の誰かがカバーし、勝利をたぐり寄せることができます。
これは、家づくりのパートナー選びにもそのまま当てはまる話だと感じています。
「有名な建築家だから」「デザインが素敵だから」——もちろんそうした魅力も大切な要素です。
ですが、家づくりの現場で本当に問われるのは、設計力だけではありません。現地調査で建物や敷地の状態を的確に見極める力、施工段階での管理体制、そして完成後のアフターフォローまで、一貫して支えられる総合力があってこそ、想定外の事態にもしっかりと対応できます。
特に、リノベーションや古民家・空き家の再生では、この総合力がより一層試されます。
新築とは違い、実際に壁や床を開けてみないと分からない劣化や、図面には現れない構造上の癖が数多く潜んでいるからです。
そうした「見えなかった問題」に直面したときにこそ、設計・調査・施工・アフターケアが一つのチームとして機能しているかどうかが、結果を大きく左右します。
私たち芦田成人建築設計事務所では、設計だけで終わらない、現地調査から施工、そして竣工後のフォローまでを一貫して伴走できる体制づくりを大切にしています。
一人のエースに頼るのではなく、チーム全体で一つひとつのプロジェクトに向き合う。
それが、想定外の状況が起こりやすいリノベーションや古民家再生において、施主様に安心して任せていただくための土台だと考えています。
準備とチームで、悔いのない一発勝負を
試合後、涙を流しながら「この試合は絶対忘れない」と織田投手は語ったそうです。
もう一度やり直すことができない一発勝負だからこそ、そこに懸けてきた準備や積み重ねの重みが伝わってきます。
家づくりも同じです。やり直しのきかない大きな決断だからこそ、事前の準備を丁寧に重ね、そして一人のエースではなく信頼できるチームと共に歩んでいくことが、悔いのない結果につながります。
明日は、いよいよ決勝戦。優勝旗の行方とともに、高校球児たちの一発勝負の集大成を、私たちも見届けたいと思います。
現地調査から設計、施工、アフターフォローまで、チームで丁寧に伴走いたします。まずは無料相談から、お気軽にお問い合わせください。
リノベの勘所 第1話「何を変えるか」より「何を残すか」
リノベーションを考えるとき、「何を新しくしようか」と考えるのは当然です。
例えば、キッチンを新しくする、床を貼り替える、間取りを変えるなどと考えるかもしれません。
勿論、それもそうなのですが
でも、その前に一度立ち止まって、「この家にしかないものは何だろう?」と考えてみてください。
長い年月を経た柱かもしれません
古い建具かもしれません
当時の職人さんが拘って造った設えかもしれません
それらは、新しい材料に交換すれば手に入るものではありません。
リノベーションとは、古いものを新しくすることだけではありません。
その家が持っている価値を見つけ、それを残しながら、これからの暮らしに合わせていくこと。
私は、そこにリノベーションの面白さがあると思っています。
リノベーション事例
この写真はリノベーションした部屋の事例です。
写真の奥に写る床の間の柱や鴨居と言うべきか?落とし掛けと言うべきか? 床板は元々この家で、この場所で使われていたものです。
今、このような床柱を使って床の間を設けようと思うと大工さんの手間もそこそこ、掛かります。
そして何といっても面白いのは枝の部分が中抜きになっている鴨居?
こんな材料、今では絶対に使わないと思うのですが、当時の施主の好みなのか、職人さんの遊び心なのか貴重な財産と思って、残しました。
その他の部分の壁が白いのは予算の関係で、拘り切れなかった部分です。
柱や敷居は当時のまま使っているため色つやが全然、異なりますが、この家の持っている価値が、このような部分にあると考えます。
リノベーションは「足し算」ではなく「編集作業」
新しい設備を足す
断熱材を足す
収納を足す
部屋を足す
もちろん必要なものはあります。
しかし、リノベーションの本質は、
何を足すかではなく、何を残し、何を取り除き、何をつなぎ直すか。
つまり、
「家をつくり直す」というより「家を編集する」こと
これが本当のリノベーションでは無いかと思っています。
リノベーションについて その20
しばらく続けてきました、「リノベーション
について」シリーズですが、一旦これまでの
内容をまとめて、締めにしようと思います。
又、時期を見て「その21」から再開するか
もしれませんが、その時には宜しくお願い致
します。
まとめ
1.建築確認申請が必要になることがある
壁、柱、床、はり、屋根又は階段の1か所で
も過半に及ぶ工事がされる場合は確実に建築
確認申請の提出が必要になります。例えば階
段の位置や向きを変えるだけでも建築確認申
請が必要になります。必要なら提出すればい
いやん、と思われるかもしれませんね。
只、提出だけで済むのなら何の苦労も無いの
ですが、建築確認申請を提出するということ
は階段以外のあらゆる部分を現在の建築基準
法に従ってグレードアップしていかないとい
けません。それだけ皆さんの金銭的負担も増
えます。様々にハードルが上がることをお分
かりいただけますでしょうか?
2. 耐震性や断熱性も考える
リノベーションでは出来上がりの表面的な部
分が注目を浴び勝ちです。例えばキッチンが
新しいのになり嬉しい、とか、お風呂がユニ
ットバスに変わり便利になったとか、見た目
に分かりやすい部分の評価はしやすいのです
が、折角、大々的に建物を触るのなら耐震性
や断熱性についてもグレードを上げておくべ
きなんです。
耐震性なんて、「いつ地震が来るのかも分から
ないのに」とか「あと何年、この家に住むか
分からないのに」などとネガティブ発言を耳
にすることもあるのですが、やっておくこと
で精神的な安定に繋がりますし、ついでにす
ることで費用を抑えることが出来たり補助金
を使えることだって出来ます。
又断熱性を上げることで、ご自身の暮らしが
劇的に変わります「こんなに暖かくなるんだ
ったら、もっと早くやっておけば良かった」
と仰る方も多くいらっしゃいます。ご自身の
身体に優しくヒートショックの心配も減らせ
ることから、特に冷え性の方、アトピーや喘
息をお持ちの方やご年配の方には是非とも考
慮していただきたいと思います。
3. 事前の調査が重要
人間も健康診断を受けたり人間ドッグに入っ
たりしてメンテナンスをするように、建物も
あらゆる面から調査をしておくことで、その
建物が持つ問題点を把握しやすくなります。
先の耐震性や断熱性の問題を解決するにして
も調査が丁寧に行われることで、より的確な
補強や修繕を行いやすくなります。
4. 構造種別
建物は木造、鉄骨造、鉄筋コンクリート造な
ど様々な構造種別があります。日本の戸建て
住宅では殆どの建物が木造で出来ていますが、
木造は自由度も高く、何度も増改築を繰り返
しながら住み継がれていて、それが良い場合
もありますが、逆にそれが雨漏りの原因を生
んだり、構造的な欠陥を生んだり、欠点にな
る場合もあります。
又、集合住宅(マンションやアパートなど)
では鉄筋コンクリート造や鉄骨造が採用され
ることも多く、木造のような自由度はありま
せんので無茶な増改築はし難い建物と言えま
す。但し、一旦つくってしまうと、後から躯
体に穴を空けたりすることが難しいため特に
設備機器を更新する際に問題となるのがそれ
らの配管配線を、どのような方法で躯体を貫
通させるのかと言うことです。新築する場合
は、それらを見越して先に予備の穴をあけて
おくなどするのですが、リノベーションの場
合は特に躯体への配慮が必要になります。
5. 設備機器の更新
構造種別は置いておきリノベーションでは設
備機器の更新をされる方も多いと思います。
特にオール電化にするのか、ガスも併用にす
るのか、あるいは太陽光発電を導入するのか、
マニアックですが、オフグリッドと呼ぶ管や
線をつなぐことなく、電力や水を自力で調達
する方法もあります。
それらのメリット、デメリット、ご自身の生
活に照らし合わせて、どの方法が最もライフ
スタイルに適しているのか、を見直すのも、
この機会に見直してみるのも良いと思います。
6. 点検商法にはお気を付けください
最近は随分と減っているのかもしれませんが、
住宅系の工事で訪問営業でやってくるのは、
殆ど怪しんで良いと思います。困った場合は、
一人で判断せずに、誰かに相談する。それが
無理なら御家族が気を付けていただくと言っ
たオーソドックスな対処方法しかないと思い
ます。「身内に建築工事の関係者が居るから、
御社には頼めません。」と言った方便で切り
抜けることも考えてみて下さい。
7. WHOでは
WHO(世界保健機関)では住まいと健康に
関するガイドラインにおいて冬季の室内温度
は18℃以上が好ましいと勧告しています。
冬の室温が18℃以上であれば呼吸器系疾患
や心血管系疾患のリスクが低減できると確認
されたからです。また高齢者や子どもの場合
は、さらに暖かい環境が必要であることも述
べています。
詳しくは、こちら をご覧ください(PDFが開
きます)
8. 温熱測定
当事務所では新築で出来たお住まいや、リノ
ベーション前後のお住まいの温熱測定を実施
させていただいています。これは前述の「W
HOでは」にも関係しますが、実際に出来た
お住まいの室温を把握しておくことで、この
仕様であればこれくらいの室温を確保できる
と、皆さまに、お伝えできるようにすること、
とともにデータを分析し、今後の改善にも生
かすために蓄積させていただいています。そ
のためには、こちらの意向を汲んで適切に施
工していただける施工者さんのご協力も大事
になります。
9. 石場建ての建物
基礎の無い建物を、石場建て構法と呼ぶので
すが昨今、このような建物を購入して住んだ
り、用途変更して他の用途の建物として生か
したいと言う需要があります。但し、用途変
更する場合、床面積が200㎡以上になる場
合は用途変更のための書類手続きが必要とな
ります。手続きが必要になると言うことは当
然、耐震の面でも断熱の面でも現在の法を順
守する必要が生じる訳です。
出来るだけ現在の面影を変えずに手を加える
にしても、法順守のための根拠が必要になり
ます。それらの根拠を示すのは、全て何らか
の計算をする必要が生じます。石場建ての構
造安全性を検証するには限界耐力計算が向い
ていると言われています。しかし、この計算
を出来る人は未だ少ないのですが、私も時間
を見つけて取り組んでみようかと思いますが
現段階では未だ出来ていないのが現状です。
出来るようになった暁には又公表させていた
だきます。
10. 住宅医と言う選択肢
私も登録している住宅医と呼ぶ民間の制度が
あります。これは、ここまでに取り上げてき
たリノベーションにおける問題点を調査の上
に洗い出して、最善を尽くし改善しようと言
った取り組みをされている方々の集まりです。
詳しくは こちら をご覧ください。
と言う訳で20章に渡りお伝えしてきました
「リノベーションについて」シリーズも、こ
こまでで一旦、締めとさせていただきますが
又ウェブサイトにもリノベーションの専門ペ
ージを増やしたいと思いますので、ご期待下
さい。ありがとうございました。
次回からは通常のブログに戻りますので宜し
くお願いいたします。
リノベーションについて その19
雨漏りはとても気になる
このシリーズの「その8」の時に屋根替え工事
をした時の写真を少しだけ紹介させていただき
ましたが、リフォームやリノベーションでは屋
根からの雨漏りも気になる部位になります。昔
の建物では下屋の防水シートの立ち上がりが少
なく、その立ち上がり不足の部分から台風など
で雨が巻き上げられると、大変な雨漏りとなっ
て部屋の中を濡らしてしまいます。
立ち上がりとは
写真が下屋の防水シートの立ち上がりを写した
ものです。立ち上がりとは垂直壁面に沿ってど
れくらいシートが立ち上がっているかを指すの
ですが、この写真で約30cmほど立ち上がっ
ています。
昔の建物では
ところが昔の建物では5cmほどしか立ち上が
っていません。それでは強風で雨が巻き上げら
れると防水シートを乗り越えて建物の内側に入
り込み1階の天井から雨が漏り始めます。天井
に雨染みがあるのは、おそらくそれが原因の可
能性が高いと思いますが、他にも谷樋になって
いて、その谷樋が銅板で葺かれているため酸性
雨で銅板が腐食し穴が開いて雨漏りになる可能
性も高くなります。
シンプルが一番
屋根の形状は出来るだけシンプルである方が雨
漏りの可能性を下げることが出来ます。屋根の
形状がシンプルと言うことは平面形状も同様に
シンプルであると言うことになります。
屋根替え
話が逸れましたが、屋根替えに話を戻します。
この建物は元々、茅葺であった屋根の上から
茅を下ろさず、その上から鉄板を被せた、い
わゆる缶詰と呼ばれる状態になっている屋根
です。
ご予算の関係で屋根だけを葺き替える提案を
させていただきました。内部は屋根を支える
構造体が繰り返された積雪などの重みに堪え
兼ねて、折れてしまい、応急処置が施された
状態でした。天井裏に上がると屋根板も脆く、
危うく踏み抜きそうになりました。
一見、立派に見える梁も割と華奢で、余計な
荷重を載せるとたわみも大きくなりそうでし
た。そのため屋根架構は出来るだけ下部に柱
のある個所に屋根を支える束を置き、成立さ
せることを考えました。又屋根勾配も写真ほ
どきつくすると、屋根面に足場を設けないと
いけないため、屋根替え後の勾配は少し緩く
なっていますが、それでも6寸勾配(約31°)
もあります。
割と華奢
写真から、複雑な屋根組ですが、割と華奢な
梁サイズであることをお分かりいただけると
思います。
扠首組
屋根は扠首組(さすぐみ)と呼ぶ軒桁より上
の部分を置いてあるだけの構造なので、屋根
の解体は比較的楽なんです。
屋根の解体
そのため、一旦屋根を取り払った状態が上の
写真なのですが、見事にフラットな状態が生
まれています。
定点観測
同じ場所から屋根が出来上がって行く様子が
分かります。
余計な負担をかけない
屋根の形状が対象になっていないのは、先述
した下に柱が建つ位置に小屋束(屋根を支え
る部材)を立てたためで、そうすることで華
奢な梁に余計な負担を掛けずに済みます。何
も考えずに以前と同じように対称形の屋根に
してしまうと、長期目線で建物の寿命を縮め
ることになります。見た目こそ大きく変わり
ましたが、屋根の大きさは健在です。
リノベーションとは
リノベーションとは単に直すだけの行為では
なく、事前の調査を元に、建物の特徴を把握
し長期目線で建物のことをより良い状態にす
る行為です。
リノベーションについて その18
築40数年の住まいを測定
前回は、築20数年のお住まいのリノベーシ
ョンした部屋としていない部屋の温熱測定結
果を比較してみました。
建築年代から考えると20数年前のお住まい
では、厚みこそ薄い物でしたが天井及び壁に
はわずかに断熱材が入っていました。
では、もう少し築年数が古いお住まいではど
うか?と言うことで築40数年のお住まいの
温熱測定をしています。現段階で特に工事の
予定は無いため工事前後の比較はできません
が公開させていただきます。こちらのお住ま
いは内外ともに真壁造の土壁仕様で無断熱の
住宅です。
2階寝室の室温
2023年2月15日から2月21日までの
7日間、2階の寝室を測定したもので、昼間
はほとんど在室していないため、リビングな
どのように暖房が常についている訳ではない
ため、より室温は低くなりがちだと思ってい
ただければ幸いです。
赤が室温、青が湿度で最低室温3.9℃、平
均室温8.9℃と、とても寒いのですが、後
半はやや室温も上がり気味で、外気温にひっ
ぱられて、やはり無断熱住宅だと、こんなも
のか、と言う気もします。
内外真壁の家では外気温による影響大
そして、こちらの表は同地域のアメダスデー
タで赤囲みの範囲が測定期間になります。測
定期間前半3日間は、最低気温がマイナスに
なる寒い日が続きましたが2月19日辺りは
平均気温が10℃を超える、この時期にして
は比較的暖かめの日があります。
このようなお住まいに、どのように断熱補強
をすべきか?難しい判断ですが、土壁の長所
を生かすなら室内は真壁のままで外壁側に断
熱措置を施した上で、内外真壁の短所である
雨対策を強化すべく屋外側は大壁として仕上
げるべきと考えます。
内外真壁の建物の改修
上の2枚の写真は先の温熱測定のデータの建
物ではありませんが、内外真壁のお寺の庫裏
の改修工事前後のものです。1枚目が工事前
で2枚目が工事後になります。2階部分は手
を入れていないため、変化はありませんが1
階部分は断熱改修も含めて水回りを増設して
います。隙間だらけの木製窓は取り替え、建
物の外側は焼き板を貼って大壁仕上げとして
います。
もっと早くやっておけば
工事後、住職からうかがったお話では「工事
前と比べると全然あったかくて、こんなに変
わるんだったら、もっと早く工事をしておけ
ばよかった」とおしゃっておられました。断
熱改修を行うと殆どの方が「もっと早くやっ
ておけば・・・」とおっしゃいます。それほ
ど、寒さと言うのは年齢を重ねれば重ねるほ
ど身体に堪えるようになります。温度差によ
るヒートショックの可能性も高くなります。
全面改修は難しくても
全面改修は難しくても長時間滞在するLDK
+水回りだけの改修を考える方も増えていま
す。欲を出すなら寝室も改修出来れば快適な
睡眠時間をもたらせてくれることと思います。
限られた予算の中で何が出来るのかを皆さん
と一緒に考え、そしてこのようなデータの蓄
積から結果を分析し、常に最善の方法を求め
続け、提案出来ることが私どもの強みでもあ
ります。
リノベーションについて その16
構造のお話
今回は少し難しくなるかもしれませんが構造
の問題です。事前調査が必要な理由のナンバ
ーワンがこの問題にあると言っても過言では
ありません。但し、これは間取りさえ把握で
きれば床下や屋根裏を覗かなくても、凡そ判
断できます。
柱が無い
良くあるのが2階の出隅の柱の真下に1階の
柱が存在しないと言ったパターンです。
床の間の横が書院になっていたりするとこの
ようなケース非常に多いのですが何が問題か
と言うと出隅の柱には非常に大きな力が作用
し易いのです。力の流れは上から下へ、即ち
屋根から地面へスムーズに力を受け流し、地
面に伝えることが必要なのですが、その際に
1階の柱が無いと、その力は梁で負担するこ
とになります。従って梁は大きなサイズの材
料が必要になりますが、大きな材料が必要と
言うことは材料費も増えますし、大きさにも
限界があります。他にももっと専門的な理由
はありますが難しすぎるためこの場では割愛
させていただきます。
下図が、その一例です。このケースでは「2
通」と「ろ通」の交点に2階の柱が載ること
になるのですが、その位置の1階には柱が存
在しません。しかし直ぐ隣の「3通」に柱が
存在するため、このケースでは未だマシな方
かもしれません。
極端な例ですが
しかし、次のケースになると「ろ通」には
「1通」と「6通」にしか柱が無い上に2階
には「2通」の位置に柱が載ります。こうな
ると構造的には相当無理な計画になり何かし
らの問題が起こる可能性が高くなります。極
端な例を挙げましたが、リノベーションでは
往々にしてこのような無謀な構造計画がされ
ているケースも結構あります。
直下率
ですので力の流れをスムーズに流そうと思え
ば2階の柱の真下には1階の柱が存在してい
ることが理想となります。上下の柱の位置の
一致する割合を直下率と言う言葉で表すので
すが、直下率の低い建物は繰り返し地震にも
弱いと言うことが発表されています。繰り返
し地震とは直近では熊本県を中心に起こった
大きな地震が数日の内に起こることを指しま
す。
スパン飛び過ぎ問題
これも又、間取りを把握できれば凡そ、分か
るのですが柱と柱の間隔が大きく空いている、
いわゆる構造スパンを飛ばしすぎている間取
りが存在ます。スパンを飛ばし過ぎると、経
年で2階の床のたわみが大きくなったり、下
屋に問題が起こることもあります。
2間以内に柱が欲しい
新築で考える場合は、単純梁の状態でスパン
2間で材料の成が約8寸で考えられます。こ
れは両端の柱の上に載る梁の上には何も荷重
が載らない状態での話です。下図が、その内
容を説明したものになります。
丘立ち柱
仮にそのスパンの上に柱や束が載ると梁の成
は8寸では持ち堪えられません。建物が新し
い内は何ともない様に見えても次第にたわみ
が大きくなるため2階の床に影響が出ます。
その柱や束が1本、2本と本数が増える度に
梁成を大きくする必要がありますが、材成に
も限界がありますので私の場合、新築建物で
は出来るだけ梁の上には柱が載らないような
計画を目指すのですが、どうしても仕方ない
場合は1本だけ柱や束が立つように収める努
力をしています。
大丈夫だろう?は大丈夫では無い
何度も繰り返しになりますが、リノベーショ
ンでは、無理な構造計画になっていることが
良くあります。
大きな梁が入っているから大丈夫だろうと思
っていても計算してみるとアウトになってい
るケースも非常に多く、これを是正できるの
はリノベーションの機会しかありません。
見た目よりも中身が大事
見た目重視の無柱大空間も良いけれど、その
危うさを良く知っておくことが重要ですし、
下手に床を抜いて吹き抜けを造っても良くな
いケースも出てきます。
その意味でもトータルにバランスを見て判断
する目を持つ人に仕事を依頼する方が賢明で
す。
リノベーションについて その14
気を付ける
まだまだリノベーションの実例はあるのですが、
今回からリノベーションにおいて気を付けるべ
き点や問題となる点などを紹介させていただき
ます。
リノベーションの動機
リノベーションの動機としては各ご家族個々の
問題を解決することが最も多いと思います。そ
れ以外で多いのは、間取りの不便さ、劣化や老
朽化による問題、結露、バリアフリー、設備機
器の更新、光熱費、最近では耐震性や断熱性を
考えられる方も増えています。
設備機器
今回は設備のお話になります。昔は電気とガス
を併用したパターンが多かったと思いますが、
一時オール電化が主流を占め、大きな災害が起
こったことで電気一本を家庭のエネルギー源と
することを不安視する方も増えました。太陽光
発電を搭載することで電気代を抑え、かつ非常
時の電源として活用する方法もあります。又、
緊急時に電気自動車を電源として活用する方法
もあります。
いざと言う時の備え
実はつい先日、私の住む地域で落雷による停電
がありました。そんなに酷い雷鳴がしなかった
ため、直ぐに復旧するだろうと思っていたので
すが、いつまで経っても電気は点きません。懐
中電灯とスマホの電燈機能を立ち上げていまし
たが、スマホのバッテリーもいつまでもつか分
かりませんし、いざと言う時のための備えが出
来ていないことを痛感しました。
電気のない生活
昔と違い現代の生活は多くの電力を必要とする
製品ばかりです。エアコン、電子レンジ、エコ
キュート、ポット、炊飯器、IHコンロ、テレ
ビ、パソコン、トイレ、などなど私たちの身の
回りには電気を必要とするものばかりです。電
気が止まるとたちまち私たちの生活がストップ
することが想定されます。
分電盤
これは分電盤の写真ですが、築20数年程度の
お住まいでしたので未だ回路の数も多い方です。
ところが築年数が40~50年程度のお住まい
になると回路の数は半分程度になるため、写真
の黒いスイッチの数が減ります。
そのように築年数の経ったお住まいの設備機器
の更新を伴う、リノベーションではこれらの回
路の数が足りなくなるため増設する必要もあり
ます。住まいのあっちとこっちで電気を使うと
ブレーカーが落ちることが多いお宅は既に回路
の数が足りていないんだと思います。
私どもの調査では、このような個所のチェック
も必要となるため撮った写真です。