↑ これは架空の見積書です。
これだけ「一式」項目の多い見積書、あなたなら信用できますか?
住宅のリノベーションを考え始めたとき、気になるのは、やはり費用ではないでしょうか。
「築40年の家をリノベーションすると、いくらくらいかかりますか?」
「30坪の家なら、坪単価はいくらですか?」
「建て替えるより、リノベーションの方が安いですよね?」
こうした疑問を持つのは、ごく自然なことです。
限られた予算の中で住まいを整えたい、できるだけ無駄な費用はかけたくない
その気持ちはよく分かります。
ただ、リノベーションの費用について考えるとき、最初に知っておいていただきたいことがあります。
リノベーションの費用は、家の広さだけでは決まりません。
同じ30坪の住宅でも、工事の内容によって費用は大きく変わります。
そして、その違いを生むのは、単に使う材料のグレードだけではありません。
建物の状態、どこまで改修するのか、何を残し、何を新しくするのか、どんな暮らしを実現したいのか。
そうした条件によって、必要な工事が変わるからです。
同じ30坪でも、工事内容はまったく違う
例えば、同じ30坪の木造住宅が2軒あるとします。
Aの家は、建物の状態が比較的良好で、間取りも大きく変える必要がありません。
キッチンや浴室などの設備を更新し、内装を整えることで、希望する暮らしを実現できそうです。
一方、Bの家は、雨漏りの跡があり、床下の木材にも傷みが見られます。
断熱性能も不足しており、間取りを変更するためには構造の検討も必要です。
どちらも30坪ですが、必要な工事は同じでしょうか。
当然、違います。
Aの家では設備や内装の改修が中心になるかもしれません。
Bの家では、傷んだ部分の補修、耐震改修、断熱改修なども検討する必要があります。
つまり、床面積が同じだからといって、工事費まで同じになるわけではありません。
坪単価は費用を考えるための一つの目安にはなっても、その家に必要な工事を教えてくれる数字ではないのです。
「一式幾ら」という文字に注意する
リノベーションの費用を調べていると、
「一式○○万円」、「坪単価○○万円から」といった表示を見かけることがあります。
予算の目安をつかむためには、こうした情報も参考になるでしょう。
ただし、その金額に何が含まれているのかは、必ず確認しておきたいところです。
例えば、次のような違いがあります。
キッチンや浴室などの設備は含まれているのか? 給排水管の更新は含まれているのか? 耐震補強や断熱改修は含まれているのか?
解体後に見つかった傷みへの対応はどうなるのか? 設計料や各種申請に関する費用は含まれているのか?
これらが違えば、見積金額も大きく変わります。
例えば、A社の見積もりが1,500万円、B社が1,300万円だったとします。
数字だけを見れば、B社の方が200万円安く見えます。
しかし、B社の見積もりに屋根の補修や外構工事が含まれていなければ、単純な比較はできません。
工事が始まってから別途費用が必要になれば、最終的な支払額が逆転する可能性もあります。
見積書の頭の金額だけでなく、その金額でどこまで工事をしてくれるのか。
そこを確認することが大切です。
安い見積もりが、結果的に高くつくこともある
ここで、少し考えてみたいことがあります。
リノベーションの見積もりが予算を超えてしまった。
そこで、金額の安い会社を選ぶ。一見すると、合理的な判断に思えるかもしれません。
もちろん、同じ工事内容、同じ品質、同じ条件で比較した結果、安いのであれば、それは有力な選択肢です。
問題は、同じ条件で比較できているかどうかです。
例えば、見積もりには含まれていない工事がある 、 必要な補修が十分に考慮されていない 、
設備や材料の仕様が異なる 、 解体後に問題が見つかった場合の扱いが明確でない
こうした違いがあれば、単純に金額だけを比較しても意味がありません。
また、必要な工事を省いたことで、後から追加工事が必要になることもあります。
もちろん、安い見積もりが必ずしも悪いわけではありません。
大切なのは、安いか高いかではなく、その金額で何が実現できるのかを理解することです。
古い家には、開けてみないと分からない部分がある
新築とリノベーションの大きな違いの一つは、既存の建物を相手にすることです。
床をめくってみる、壁を解体してみる、天井裏を確認する
そうして初めて、これまで見えなかった部分が分かることがあります。
例えば、床下の木材が傷んでいる 、 雨漏りによって柱や梁が劣化している 、 シロアリの被害がある 、
以前の工事で配管が変更されている 、 図面と実際の建物が違っている
こうした問題は、事前の調査で発見できる場合もありますが、解体して初めて確認できることもあります。
だからといって、何も分からないまま工事を始めてよいわけではありません。
事前に確認できるところは確認する 、 想定されるリスクを整理する
追加工事が必要になった場合の対応を、あらかじめ相談しておく
こうした準備が重要になります。
リノベーションでは、工事費だけでなく、予想外の事態にどう備えるかも予算計画の一部です。
すべてを新しくする必要はない
予算を考えるとき、もう一つ大切なのが、何を新しくして、何を残すのかという判断です。
例えば、古い柱や梁。状態が良く、構造上も問題がなければ、活かせる可能性があります。
一方で、劣化した部分や性能が不足している部分については、補修や改修が必要になることがあります。
つまり、古いものをすべて残せば安くなるわけでも、すべて新しくすれば安心というわけでもありません。
残すために補修費用が必要になることもあります。
逆に、既存の間取りや配管を活かすことで、解体や移設の費用を抑えられる場合もあります。
重要なのは、単純に新旧を分けることではありません。
残す価値があるものと、改修する必要があるものを見極めること。
その判断によって、費用の使い方も変わってきます。
これは、第1話でお伝えした「何を変えるか」より「何を残すか」という考え方にもつながります。
予算が限られているなら、優先順位を決める
リノベーションでは、やりたいことが次々に出てきます。
キッチンを新しくしたい、浴室を広くしたい、広いLDKにしたい
収納を増やしたい、断熱性能を高めたい、耐震性も改善したい
どれも大切な要望です。
しかし、すべてを希望どおりに実現するには、予算が足りないこともあります。
そんなとき、単純に工事費を一律に削っていくのは、あまり良い方法ではありません。
まずは、何を優先すべきかを整理する必要があります。
例えば、
優先度が高いもの
構造上の問題や雨漏りなど、建物の健全性に関わる工事
必要な耐震改修や、深刻な劣化への対応
これからの暮らしに不可欠な設備の更新
暮らしの質を高めるもの
断熱性能の改善
家事動線や間取りの改善
収納や使い勝手の向上
条件によって検討できるもの
仕上げ材のグレード変更
一部の造作家具
外構や庭の整備の一部
これはあくまで一例であり、すべての住宅に同じ順番が当てはまるわけではありません。
例えば、寒さが深刻な住宅では断熱改修の優先度が高くなりますし、屋根や外壁に問題があれば、そちらを先に考える必要があります。
大切なのは、単純に安いものから削るのではなく、建物の状態と、これからの暮らしに照らして優先順位をつけることです。
予算をかけるべきところ、かけなくてもよいところ
建築の設計では、すべての場所に同じようにお金をかける必要はありません。
例えば、毎日使うキッチンの作業環境を改善することに、しっかり予算をかける。
冬の寒さが厳しい家なら、窓や断熱の改善を優先する。
耐震性に問題があるなら、必要な補強に予算を配分する。
一方で、見た目だけの変更であれば、既存のものを活かす方法も考えられます。
すべてを高価な材料にする必要はありません、すべてを造作にする必要もありません。
既製品を上手に使いながら、必要なところに手間と費用をかける方法もあります。
お金をかけること自体が目的ではありません。かけた費用が、暮らしのどこを良くするのかが重要です。
「総額」だけでなく、工事の中身を考える
リノベーションを計画するとき、予算の総額を決めることは大切です。
ただし、総額だけを決めても、具体的な計画には進めません。
その予算で、どこまで工事をするのか、どこは必ず改修するのか、何を残すのか。
こうしたことを整理する必要があります。
また、工事費だけでなく、設計・監理料、調査費、各種申請費用、仮住まいや引っ越しにかかる費用なども、計画に応じて考えておきたいところです。
補助金を利用できる場合もありますが、制度の対象となる工事や条件、申請時期などの確認が必要です。
補助金が使えることを前提にするのではなく、まず必要な工事と予算を整理し、その上で利用できる制度を検討する方が堅実です。
そして、予算を決める際には、建物の状態や工事内容に応じて、予備費も考慮しておくと安心です。
最初に金額を決めるより、まず家を知る
「リノベーションには、いくら必要ですか?」
この質問に、建物を見ずに正確な金額を答えることはできません。
もちろん、一般的な相場や概算の目安をお伝えすることはできます。
しかし、その数字だけで工事の判断をすることは出来ません。
同じ築年数でも、建物の状態は違います、同じ床面積でも、必要な工事は違います。
同じ予算でも、どこにお金をかけるかによって、又考える人によっても、完成する住まいは変わります。
だからこそ、まずは建物の状態を確認する。
その上で、どんな暮らしを実現したいのかを整理する。
そして、必要な工事と予算を照らし合わせていく。
この順番が大切だと考えています。
予算に合わせて、できることを考える、ただし、必要な工事まで安易に省かない。
残せるものは活かし、必要なところにはきちんと費用をかける。
それが、限られた予算の中で良いリノベーションを実現するための基本です。
リノベーションは、安くすることが目的ではない
もちろん、工事費は安いに越したことはないかもしれません。
しかし、安くすることだけを追いかけると、本来必要だった工事を見落としたり、
完成後の暮らしに不満が残ったりすることがあります。
反対に、費用をかければ必ず良い住まいになるわけでもありません。
必要以上に高価な設備を選ぶ、使いこなせないほどの設備を導入する、
見た目のためだけに大規模な工事をする
それが本当に必要なのか、考えてみる価値はあります。
大切なのは、安さでも豪華さでもありません。
その家に必要な工事を見極め、限られた予算を、これからの暮らしのために使うこと。
私は、それがリノベーションにおける設計の役割だと考えています。
リノベの勘所
リノベーションの予算は、坪単価だけでは分からない。
同じ広さの家でも、建物の状態や工事範囲によって費用は変わります。
見積書の総額だけでなく、何が含まれていて、何が含まれていないのかを確認する。
そして、建物の状態を把握した上で、必要な工事に優先順位をつける。
残せるものは活かす、直すべきところは、きちんと直す。
お金をかけるべきところと、かけなくてもよいところを見極める。
良いリノベーションとは、たくさんお金をかけた住宅ではありません。
使える予算を、暮らしにとって大切なところへ適切に配分した住宅です。
まずは坪単価を調べる前に、その家の状態を知ることから始めてみませんか。