リノベの勘所 第6話

リノベーションにあたり、解体した現場の様子

間取り変更は「壁を壊す」ことではない

リノベーションの相談を受けていると、よくこんな話があります。

「この壁を取って、LDKを広くしたいんですが・・・」、「和室とリビングをつなげたい」、「キッチンをこちらに移動したい」

どれも、リノベーションではよくある要望です。

そして、それを聞くと、「では、この壁を壊しましょう」と考えてしまいそうになります。

でも、私は少し違うところから考えます。

「その壁を壊したら、どんな暮らしになるのか?」です。

間取り変更は、壁を壊すことが目的ではありません。

その先にある、「どんな暮らしをしたいのか」を実現するための手段です。

「壁をなくせば広くなる」は、本当でしょうか?

例えば、6畳の部屋と8畳の部屋の間にある壁を取り払えば、単純に考えれば14畳の一つの空間になります。

確かに、物理的には広くなります。

でも、「広くなった=暮らしやすくなった」とは限りません。

家具をどこに置くのか? テレビを見る場所はどこなのか? 食事をする場所はどこなのか? 子どもはどこで遊ぶのか?

洗濯物はどこに干すのか? 冬に陽射しが入りやすいのはどこか?

そして、家族それぞれが一人になりたいとき、どこに行くのか? 

こうしたことまで考えて初めて、間取りの変更に意味が出てきます。

ただ壁をなくして大きな部屋をつくるだけなら、設計というより「解体」に近いかもしれません。

その壁、本当に取っていい壁ですか?

もう一つ、リノベーションで忘れてはいけないことがあります。

それが構造です、前回、耐震補強について書きました。

既存住宅の場合、壁には単なる「間仕切り」として存在しているものだけではなく、建物を支えている重要な壁が含まれていることがあります。

筋交いが入っている、耐力面材が使われている、柱や梁と一体となって建物を支えている。

あるいは、その壁をなくすことで、別の場所に負担が集中する。

見た目だけでは、それが分からないこともあります。

だから、「この壁をなくしたい」という要望が出てきたとき、

「取れるか、取れないか」だけで判断するのではなく、

「取った場合、建物はどうなるのか?」を確認する必要があります。

これはリノベーションの基本です。

古い家ほど「間取り図」だけでは分からない

新築住宅の場合、設計段階から構造を含めて計画します。

一方、既存住宅では、実際の建物を見てみると図面と違っていることがあります。

増築されていたり、以前にリフォームされていたり、図面が残っていない、

柱や梁の位置が想定と違う、壁の中に筋交いが入っている、

床下や天井裏を確認して初めて分かることもあります。

つまり、

既存住宅のリノベーションは、図面だけを見て設計するものではありません。

実際の建物を見て、壊して、確認して、また考える。

そうした作業が必要になります。

だからこそ、リノベーションでは「現場を見ること」が非常に重要なのです。

「残す」という選択肢もある

ここで、第1話の内容を振り返ってみます。

リノベーションでは、「何を変えるか」だけではなく「何を残すか」も考える必要があります。

例えば、昔ながらの建具、土壁、庭とのつながり、当時の職人が凝らした趣向など

これらは、すべて取り払って新しくすれば良いというものではありません。

むしろ、新築では簡単につくれないものもあります。

だから、「古いから新しくする」ではなく、「この家にしかないものは何だろう?」と考えてみる。

その上で、残すものと変えるものを決めていきます。

「開ける」だけでなく「閉じる」ことも考える

最近は、開放的な間取りが好まれる傾向があります。

広いLDK、大きな窓、間仕切りの少ない空間、もちろん、それは魅力的です。

でも、家の中には「閉じておきたい場所」もあります。

集中して仕事をしたり、子どもが勉強したり、少し一人になりたい、

来客時には生活感を隠したい、寝室は落ち着いた空間にしたい

つまり、良い間取りとは、全部を開放することではありません。

「開くところ」と「閉じるところ」、「つなげるところ」と「分けるところ」。

そのバランスを考えることが重要です。

古い家だからこそできる間取りもある

既存住宅のリノベーションには、新築とは違う面白さがあります。

その条件を読みながら、新しい暮らしを組み立てていきます。

すべてを一度壊してしまえば、自由になるように思えます。

しかし、実はそうとも限りません。

既存の条件があるからこそ、「ここを残して、ここを変える」

という設計が生まれます。制約があるからこそ、できることもあります。

そして、予算も忘れてはいけない

間取りを大きく変えるほど、工事も大きくなる傾向があります。

壁を壊したり、柱を移動したり、梁を補強したり、電気配線をやり直したり

場合によっては、給排水設備も移動する。

一つの壁をなくすだけのつもりが、思った以上に工事範囲が広がることがあります。

だからこそ、「この間取りにしたい」だけではなく、

「この暮らしのために、どこまで工事をする価値があるのか」

を考えることが大切です。

リノベーションでは、限られた予算の中で、すべてを理想通りにすることが難しい場合もあります。

だからこそ、何にお金をかけるのか。

何を残すのか、何を諦めるのか、そこにも設計の力が必要になります。

「新築のような間取り」にする必要はない

リノベーションの完成写真を見ると「これが古い家だったの?」と思うような事例もあります。

それは、とても魅力的に見えます。

でも、私は必ずしも「新築のようにすること=良いリノベーション」だとは思いません。

古い家には、古い家の良さがあります。

建具や土壁、そこに積み重なった時間。

それらを全部消してしまうのではなく、

「古い家の良さを残しながら、今の暮らしに合わせる」

という方法もあります。

それこそが、リノベーションならではの設計だと思っています。

間取りを変える前に、暮らしを考える

リノベーションの相談で「この壁を取れますか?」と聞かれたら、

私はその質問だけでは答えを出したくありません。

その壁を取って、何をしたいのか?、どんな時間を過ごしたいのか?、誰と暮らすのか?

これから家族はどう変化していくのか?

そこまで考えて「では、この壁はどうしましょう?」と考えたいのです。

場合によっては、壁を取らない方が良いかもしれませんし、もしかしたら壁を少し残した方が良いかもしれません。

別の場所に開口部をつくった方が良いかもしれません、或いは、全く違う間取りにした方が良いかもしれません。

正解は、家によって違います。

リノベーションは「解体」から始まらない

リノベーションというと、「古いものを壊して、新しいものをつくる」というイメージがあるかもしれません。

でも、本当に最初にやるべきことは、壊すことではありません。

見ること、そして、考えること

この家には何があるのか。

何が問題なのか? 何を残せるのか? 何を変える必要があるのか?

その上で「これから、ここでどんな暮らしをするのか」を考える。

それから、初めて壁を壊すかどうかを決めればいい。

リノベの勘所

間取り変更は「壁を壊す」ことではない、暮らしを変えるために、壁をどう扱うかを考えること。

広いLDKをつくることが目的ではありません、部屋を減らすことが目的でもありません、

古い家を新築のようにすることが目的でもありません

その家が持っているものを読み取り、残すものと変えるものを見極め、構造と暮らしを一緒に考える。

その結果として、新しい間取りが生まれます。

「この壁、取れますか?」その質問の前に、

「なぜ、この壁を取りたいのですか?」

と聞いてみる。

そこから、本当のリノベーションが始まるのだと思います。

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