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駅前の家(リノベーション)

駅前の家

(リノベーション)

駅前の家(リノベーション)/2020年

作業場として建築された建物、その建物の2階は人が生活できるような簡素な設えを施し、売りに出されていました。
住まい手は、その建物を購入後、暫くそのままの状態で生活をされていました。
建物は重量鉄骨造ゆえに、前面道路をバスが通過するたびに揺れを感じます。(鉄骨造は、ある程度揺れることでエネルギーを分散する構造です)
それ故、今回のリノベーションでは壁面の断熱材の選定も配慮し、吹付タイプの物を選択しています。断熱材はケースバイケースで使い分ける必要があります。
プランニングは生活の主となるLDKや水回りを1階に配置し、プライベートスペースを2階に設けています。
採光の主となる窓は1階では元々、北面にしかなく直射光が届くことはありませんが安定した明るさを確保し、壁面や天井面を白で仕上げることで心地よさを確保しています。
1階と2階をつなぐ階段は180°向きを変更し、生活につながりを持たせることが出来ます。
2階の壁面と天井面は住まい手自らが塗装をしていただくことで記憶に残る工事となりました。


建築場所 兵庫県丹波市
敷地面積 102.12 ㎡ (30.89 坪)
建築面積  76.15 ㎡ (23.04 坪)
延床面積 141.03 ㎡ (42.66 坪)


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1階のLDKは長細い空間で、窓の有る壁面に沿って長いカウンターを設えています。重量鉄骨造ゆえに室内に現れる柱の存在を消すことは出来ません。出来ないなら、逆にその存在感を大きくし、黒く色付けしてインテリアのアクセントにしてしまおうと形作ったのが写真右手の黒い部分です。正面、奥のテレビ台の背面壁はレッドシダーを貼って仕上げています。

アプローチを兼用したスペースは熱環境的には屋外です。しかし、ちゃんと屋根も存在し壁もあります。シャッターを閉めると空間的には屋内となります。ここはユーティリティーに使用できるスペースでありながら住まいのエントランスでもあるため、特徴ある材料の使い方をしています。壁面は構造用合板をそのまま貼り、一面だけ着色仕上げ。天井は木刷り板と呼ぶ塗り壁下地などに用いられる下地材を仕上げに使用しています。

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キッチンカウンターは天板の奥行を深く確保し使い易さに配慮しています。カウンターに用いたのは節の無い杉板です。節の無い木で清潔感とすっきりした印象を与えています。

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柱型を誇張し黒く色付け、その両側に飾り棚を窓高さに揃えて設けています。縦と横のつながりと色遣いによって空間に動きを与えています。



階段

階段は以前と180°向きを変えたことで1階と2階の生活につながりを持たせています。
2階に上がり切った先にはバルコニーへ出るドアがあり、そのドア越しに降り注ぐ光が2階に導いてくれます。

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子供部屋のバルコニーへ出る窓は新規に設けた窓(写真正面)で、右手に写る腰窓は元あった窓の内側に1枚付け足したものです。
工事前と比較しても室内の様子が大きく変わり明るくなりました。

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主寝室には東面と北面に大きめの腰窓がありましたので、いずれも内窓を付け加えています。
写真に写る陽射しは東面から入る朝陽です。

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長い廊下の一隅に室内物干し場を設けています。


Before (これらの写真は解体工事に着手した当日に撮影しています)

縫製の仕事をするための作業場であった1階部分。
土間の部分は縫製の仕上がったものを積み込む車のためのスペースだったと思われます。

元作業場であったと思われる1階の板の間。
工事前、住まい手の実際の生活は主に2階で行われていましたが、1階の奥にあった風呂や洗面脱衣とはかけ離れた場所に存在していたため実際の生活動線はかなり悪かったと想像できます。

階段の向きが工事前の家の生活を分断していた理由とも言えます。
今回の工事では階段の向きを180°変えて生活につながりが生まれています。

工事前の2階の廊下は階段を上がって真っすぐ建物の奥に伸びていました。工事後は階段を上がって又180°向きを変えて廊下を設けたためそれぞれの部屋は少しずつ狭くなりましたが、十分に事足りる広さも確保出来ています。


ワンポイント

鉄骨ALC造のこの建物に木造の建物と同じように壁の断熱材を入れようと思うと

部屋が20cm以上も狭くなり、生活に影響が出ることを懸念しました。

木造は柱の奥行があるので、その奥行を利用した断熱施工が可能になりますが

こと鉄骨ALC造の建物で、どのようにすべきか?を考えました。

先にも書いていますが、鉄骨の建物は結構揺れます。

揺れて断熱材が落ちてしまっても困るので、使うなら吹付系の物になると判断しました。

そして、どの程度の厚みにするのか?ですが壁に石膏ボードを貼るためには

木材による下地が必要になり、その下地の厚みと吹き付ける断熱材の厚みを

揃えれば、それなりに遜色ない性能が得られるだろうと判断しました。

結局45㎜厚の下地木材を採用し、現場発泡硬質ウレタンフォームによる

断熱施工としています。

性能はALC版の厚みと断熱材の厚みを足したもので決まるため木造程の性能は

出せませんが、幸い南壁面は直ぐ目の前に隣家の建物が建つため日射による影響は

さほど大きくなりません。むしろ屋根面からの日射対策をしっかりしておくことで

快適に暮らして頂けるだろうと判断し、天井面への断熱をしっかり確保しています。

うっすらとピンク色をしているのが現場発泡硬質ウレタンフォームです。

鉄骨躯体には断熱していませんが天井面はそれよりも下がるため

高性能グラスウールを二重に重ねて施工しています。


施工 / 有限会社クレア
撮影 / 中村写真工房


初期案

初期案からは大きな変更がありました。建物は間口に対して奥行が長いため、初期案では、その奥行の長さを生かしたキッチン周りのレイアウトにしていたのですが、対面キッチンに対する憧れを優先したいとの住まい手の思いを汲み取りました。外観に関しては、ご予算の関係で、外壁は塗り替えと玄関ドアの更新に留めました。