ヘの字に暮らす (2016年)
住まい手は、市内各所を候補に土地探しを進められましたが、最終的にはお子様が転校する必要が無いエリアでの土地を選択されました。
敷地は古くからの住宅街で、周囲には既に多くの建物が建ち並んでいます。北側と西側に道路が面し、南には隣家が存在します。
やや南東の隣家は2.0m程敷地レベルが下がり、庭として使われていて視覚面、採光面で空いています。
この敷地に方位に素直にプランをしてしまうと、この住まいの一番大きな窓は隣家の家とまともに向き合うこととなり、プライバシーに劣るため絶えずお隣を気にした生活を強いられます。
そのために、このプランで考えたことは建物からの視線の抜けや採光を南東面から確保することでした。へノ字の平面は、ここから生まれました。
南東面に建てた塀により、外からの視線を気にすることが無くなりました。まるで中庭のような、お庭は自分たちで育てると言うポリシーによって、植樹をし、畑を耕されています。
北側の道路に沿った低い石積みも自分たちで積まれました。そこに何を植えようかと画策中とのことです。
建築場所 京都府福知山市
敷地面積 310.66㎡ (93.97坪)
建築面積 96.5 ㎡ (29.19坪)
延床面積 129.76㎡ (39.25坪)
※ 最後まで見て頂くと、冬季の室温測定の結果も掲載しています
北面外観
水平に伸びた下屋のラインにより数字以上に大きな住まいに見えます
北東面外観
ヘの字の敷地形状をなぞるように下屋の部分が道路に平行に延びます
南面外観
ヘの字の内側が庭になっています。隣地の敷地レベルは当地よりも一段低いため目隠し塀で囲うとプライバシーが高まりました
への字型プランが理解できる外観写真です
左/エントランス外 焼き板貼りの外壁に揃えるように玄関戸を塗装しています
右/エントランスからストレートに物干しバルコニーに出ることが出来ます
左/キッチンからダイニング、リビングを観る
右/キッチン への字の中心にキッチンを配置しています
リビング ソファ生地はミナペルホネンを選択されました
ダイニング キッチンとダイニングテーブルがヘの字に繋がりました
左から
洗面カウンター / カウンター部分を広く確保し2人が立っても同時に使用できます
浴室 / 壁、天井を北前ヒバで仕上げています。板を貼った当初は香りにむせ返るほどでしたが引渡しの頃には丁度良い落ち着いた香りとなっていました
トイレ / 写真奥の壁は便器の奥よりも手洗いのある側が開いているため、広くゆとりある空間となっています
2階吹抜に面したホールには脚を入れ込むことが出来るワークカウンターを設けています
廊下
子供部屋 二段ベットを備えています
室温測定
住まいの完成後、生活が落ち着いた頃合いを見計らって、室温測定機器を設置させて頂きました。
測定期間は2017年2月3日~2月12日までの予定でしたが、2階に設置した機器が途中で記録を止めたので2階は2月8日までの分を記録しています。
1階は期間中の最高室温が20.8℃、最低室温が12℃、平均16.5℃でした。そして2階は最高室温が26.1℃、最低室温が10.2℃、平均が14.9℃となっています。
一方、下図は気象庁のアメダスデータですが、同測定期間中の最低外気温は-4.9℃となっていて、同日の最低室温は13℃程度です。2階は2月8日までしか記録がありませんので、その期間での最低外気温は2月4日の0.6℃です。同日の2階最低室温を見ると、約12℃です。
これらをまとめると、一番外気温が低い日の外気温と室温の差が1階では17.9℃、2階では11.4℃となっています。
1階は他物件と比較しても、同程度の差をキープしていますが、2階は少し低い理由を突き止める必要がありますが、今回は初めて2台の測定器を同時に稼働させた測定でしたので、機器総合間の感度や測定ポイントの条件も鑑みる必要もありそうです。
ワンポイント!
こちらの住まいは、工務店に依頼せずに分離発注に近い方法で工事を進めました。
そのために現場監督は存在しませんので、現場の窓口を当事務所が務めました。
であるなら、現場へ通う頻度を普段以上に増やす必要がありました。
現場に通う頻度が増えると普段以上に気になる個所が増えます。
今回は経験値を上げる意味で徹底した断熱施工、特に壁面を意識しました。
例えば、下の写真で言うと写真正面の窓の左側の柱の真っすぐ上を見て頂きますと斜めの垂木と壁の間の断熱材の
間に僅かに隙間があるのが分かります。そして右上の丸いパイプの更に右を見て頂きますと
斜めの垂木との間にも僅かに断熱材の隙間があるのが分かります。断熱材は隙間なく詰めるのが鉄則です。
それを改めたのが下の写真になります。
隙間を埋められる程度に小さく断熱材を割いて隙間に詰め込みました。
但し、単に詰め込むだけでは奥に押し込むだけになります。
断熱材は奥に押し込み過ぎてしまうとダメなんです。
断熱材の厚みを生かした上で、出来るだけ部屋側にぴたりと引っ付くような施工が理想です。
この現場ではアクリアウールと呼ぶ高性能グラスウール断熱材を使いましたが、
チクチクしないので素手でも扱えます。
袋入りの断熱材の場合、このような補修をし難いため壁面では極力袋入りを使わないようにしています。
予算にゆとりがあれば吹き込み系の断熱材ならば先のような施工上の不安は失くせます。
このように小さなことの積み上げによって家の性能は変わります。
見ために格好いい家を造るのは簡単ですが、性能の良い家を造るには、より細かなチェックと正しい知識、
そして現場ごとに変わる状況判断が必要です。
格好良いだけの家は、恐らく20年後には壁の中は結露でボロボロでしょう。
でも、きちんと施工された家は20年経とうが財産として住み継いで頂くことが出来ます。
施工 / 直営
撮影 / 中村写真工房